第二十四夜『煙に巻いた噺』
「ご機嫌いかがでしょうか?煙草のひとつでも買ってきましょうか?それくらい言いつけていだいても」
「必要ない。ですか。……今宵は二十四夜」
『煙に巻いた噺』
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むかしむかしあるところに、独り身の男がおりました。ボサボサのいつ洗われたのかわからない伸びっぱなしの髪に青髭の男。それは寂しく煙草を吸っていました。たまに来る者がいるとすれば溜まったツケを払うように催促する者ばかりです。
「すまねぇな。今大した金は持ってねぇんだ」
毎度のようにこの一言だけでのらりくらりと金を払いませんでした。
そんな、ろくでもないような男でしたが人望はそれなりにあり、毎回見逃して貰うことができました。
「悪いね。今度払うから」
煙草を咥えながらそんなことを口にします。もっとも毎日のように、しかも四六時中煙草を吸っているのですからお金が無いというのは決して違いますが。
そんな普段何をしているのか分からない男についての噂がひとつだけありました。それは妻と子どもに関して。だらしなく、煙を吐き出すだけの男にも愛すべき家族がいました。しかし、十数年前にいなくなってしまったというのです。彼が今のように自暴自棄に近いことになったのはその事件の後でした。
家族を奪われた男は半ば世捨て人のような生活をしていました。その日もツケの催促とおまけに煙草の数本を貰いました。彼はさっそくマッチに火をつけ、薄紫の煙をゆっくり、ゆっくりと吸って、一思いに吐き出しました。上を向いて吐き出した煙が空に舞うとき、切迫した声が、叫び声に近いなにかが聞こえました。
「ひ、人さらいが出たぞぉっ」
男の片眉がピクリと動きました。
次の瞬間には煙草の煙は人さらいの前まで近づいておりました。まさに眼前、人さらいの左目に灰がこぼれます。掴まれている少女に煙が入らないように気を遣いながら。
「おじさんは人さらいって奴に良い思い出とかなくてねえ。まぁそれは皆そうなのかな。勝手に恨みを晴らさせろ」
人さらいの腹に重たい一発をお見舞いします。そして、少女を解放した後、新たな煙草に火をつけます。
「ちょっと付き合って貰おうか」
深く、吸い込んで、吐き出した大量の薄紫の煙が男と人さらいを包み込みます。
煙が晴れたその時には誰も居なくなっていました。それはまるで男の持ってるような靄が晴れたかのように。男の行方もどこに行ったのか分からないままです。
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「お噺はここまで」
「煙を吐き出したいならそれでもいいですよ。初夜からしばらく経ちましたし」
「あなた様のために語りましょう。紡ぎましょう」
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