第二十三夜『舞を好んだ悪魔の噺』

「またお越しいただき感謝いたします。時にあなた様、舞はお好きですか?」


「今宵は激しい舞の二十三夜」


『舞を好んだ悪魔の噺』

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 この物語は人間たちが住まう地上より地下。つまり現世より下にある地獄から始まります。死んでしまった人間は天界に運ばれ、善人だと判断されれば天国での暮らしをします。その反対に悪人は天国から現世を通り地獄までまっ逆さまに落ちて、拷問を行われます。善人はすぐに次の生へと旅立ちますが、悪人は悪魔により時間をかけて懲らしめなくてはいけません。地獄の悪魔たちの心労と肉体の疲労は途方もありませんでした。

 いつものごとく盗みや殺人を犯して反省していない人間を拷問している最中、一人の悪魔が疲れのせいかぼやきました。


「俺はこんなことやめて癒されたい」


亡者をたたく、切る、煮る、焼く。それはどこか食材の調理を彷彿とさせる作業でした。毎日のように数は増え、終わりの見えない単純な労働に悪魔たちは皆、新鮮さを求めました。


「天界から楽器の弾ける奴や舞を踊れる奴を呼んでみないか?」


そんな提案がされました。

 天界と地獄は距離こそ天地の差があれど、いがみ合っている訳では無いのです。天使も悪魔も亡者を整理して、然るべきかたちで次の生へと送り出すという考えは変わりません。悪魔たちの住まう地獄は怖い場所として人間たちに認知されていますが、天界は素晴らしいものとして崇められ、神事で舞も披露されていました。人々を癒す目的を持つ舞をする天使は現世だけでなく地獄にも必要になりました。

 毎日のように舞うことは体力の問題やありがたみが薄くなるということで一年の終わりごとに毎年地獄で舞って貰うことに決定しました。その後は毎年神聖な舞をする天使を見て、悪魔たちに活力が戻りました。だんだんと増えてゆく亡者にも苦痛を与え続けました。

 ある一年の終わりに下級の天使がやってきました。


「すみません。悪魔様方。今年は天使が風邪を引きまして舞は中止になりました」


それを聞いた悪魔たちはひどく落胆しました。あのゆったりと心を落ち着かせて、それでいて暴れだしそうな生命力を感じることができないのです。小さな天使の報告から一拍おいてある悪魔が言いました。


「俺たちが舞わないか?」


しかし、悪魔に舞の練習をする暇はありませんでした。

 そこで人間に舞を踊らせようということにしました。悪魔たちは黒い風邪を現世に撒き散らします。天使の身を案じ、それでいて人間たちに八つ当たりするように。黒い風邪を吸った者は苦しみながら死んでいきました。一思いではなく、手足を震わせて舞うようにゆっくりと。


「これで罪を犯すであろう奴も死んだな」


悪魔たちは微笑みながら人間たちの舞を見ておりました。

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「お噺はここまで」

「私も舞いたいです。自分のベストな舞をそのうち披露いたしますか」

「それではまた、語りましょう。紡ぎましょう」

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