第二十一夜『速い者と長い者の噺』

「気づけば二十夜を越えて、長々とお付き合いしていただいております」


「今宵は人類の夢の二十一夜」


『速い者と長い者の噺』

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 むかしむかしあるところに老人が一人おりました。その人はもう耳も遠く、目も悪く、若い頃のように歩きまわることさえ困難を極めました。病院のベッドに横たわりながら人生を振り返ります。親からの愛を受けて成長して、最愛の人と結ばれて、子どもも孫の顔まで見ることができたなぁとしみじみ思います。そして、以前は子どもたちが見舞いに来てくれたのに、最近はめっきり顔を見せてくれないなとも思いました。


「そろそろお迎えが近いのかね」


鏡に映る深いシワが刻まれた顔を見ながらそう言いました。

 何も満足に出来ない身体で物思いに耽っていると、空に月が顔を覗かせました。また一日が過ぎていってしまうのか。そう思った時でした。老人の目の前に二人の子どもが現れたのです。まず、全身白い服を纏った少女がおりました。笑顔がとても素敵でした。一方でふてくされている黒い服の少年が現れました。老人は孫が来てくれたかと思いましたが、すぐに目の前の二人は知らない子であると理解します。


 少女が口を開きました。


「あなたは明日、生きてはいられないの」

「これから少しもしないうちに寿命が来るからお迎えに来たの」


老人は驚きはしたものの素直に自分の寿命とお迎えに従いました。


「理解があって助かるわ。あなたはちょっと特別だからね」


 少女によれば生前に善行をしたり、特を積んだりしたものは来世で特別な力を使うことができるというのです。


「あなたは優しさに溢れた人だけど自分でもやりたいことがいっぱいあったでしょう?」


自分が我慢すればいいと思い、人生を送って来たのだと少女にばれてしまいました。


「だからね。色々なことができるようにあなたの心臓の鼓動を倍にして素早く動けるようにしてあげる」


白の少女はそう言いました。

 何でも短時間でできる来世を素晴らしいものだと思いました。しかし、少年が待ったをかけました。


「こいつの力だと動作は速くなっても寿命が半分程度になるぞ」

「その点俺が居れば、来世の寿命を倍にしてやろう。今より長生きだ」


寿命が倍になれば、なんて魅力的でしょうか。孫の顔どころかそのまた孫の顔も見れることでしょう。


「待って、黒のやつは動きがとても遅くなる能力もついているわ」


老人はまた来世もこれと同じ身体にしてくれと口にして夜を迎えました。

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「お噺はここまで」

「そう大差ないことが世の中ほとんどでは無いでしょうか?」

「また語りましょう。紡ぎましょう」

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