第二十夜『夜に蠢く者の噺』
「今宵は夜に生きる者の物語です」
「月夜がきれいな第二十夜」
『夜に蠢く者の噺』
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それは日付が変わってから元気に動き出しました。青白いその顔は彼の行動と矛盾しているようにも思えます。背格好は少年ほどに見えるそれは全ての力を振り絞り走っています。
「まだ深夜の二時を過ぎたところか。今夜は調子が良い。普段より幾分はやくやるべき事が終わってしまった。もう自宅へ帰るとしようか」
「特別この仕事にやりがいも思い入れも無い。何故この仕事をしているのかと問われることがあれば、我々は夜に生きる者であるからだと答えるだろう」
そんな独り言にしては長いようなセリフを吐いてほくそ笑んだ後、彼は帰路につきます。帰り道にある公園では社会に疲れたのでしょうか。しばしばブランコに乗っているどこかの父親や、皆が寝静まって気分が良い青年が逆上がりというものをしているのを彼は見掛けることがありました。そして今日という日も例外ではありませんでした。
「お前たちは私より若いだろう」
彼は大きなため息をつきました。
「だがしかし、本来公園というのは親子連れ。子供が昼間に遊ぶ場所だと仲間に聞いた。この時間帯にいた子供というのは大抵ろくなことが起きない」
普通の子供は砂場で遊んで、山やら城やらを作るらしいということは知っていました。人という者は本来は日の光とともに目覚め、日の光とともに寝ます。そんなことは知識欲の強い彼は当たり前のように知っていました。普通の人の家庭に興味はあるものの、彼と一般人では活動時間が合わなかったため調査をすることは困難を極めるのです。
彼は深い悲しみと虚無感を覚えました。
「一人寂しく砂の城でも作って見るか」
砂を少し物悲しそうに掬い上げ、素手のまま固めていきました。それから彼が望んでいた城ができる頃には日こそ出ていなかったですが、それなりに時間が経っていおりました。そろそろ切り上げたほうがよいでしょう。早く帰らなければ砂場の一部になってしまいます。かつて夜に生きた者たちは行きすぎた熱量のせいで硝子のように透き通り、脆くなってしまいました。
「今日は昼が長い。久々にたっぷりと寝て活力にしよう。私には寝心地の良い棺が待っている」
そんなことを言いながら欠伸をするのでした。
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「お噺はここまで」
「今回はすこし短めでしょうか?」
「また明日はたっぷりと語りましょう。紡ぎましょう」
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