第十九夜『代行者の噺』

「あなた様はいつでもお越しになってくれます。嬉しい限りですが、私もたまには代理の者に頼みたいところです」


「今宵はそんな第十九夜」


『代行者の噺』

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 むかしむかしあるところに、金さえ積めばどんな依頼でも受ける業者がおりました。料理や買い物、強盗に殺人、その証拠隠滅まで。その他諸々を加えた依頼ができます。彼はひとりの人間の人生を傾けてしまうほどの大金を要求する何でも屋でしたが、仕事振りは素晴らしいものでした。どんなことでも一切の躊躇が無いため、人を呪わば穴二つ。憎き相手を消すために依頼を出す輩が増え、そのうち彼は代行者と呼ばれるようになりました。まぁ、依頼人は金を前払いした後、あの世へ逝くことも少なからずありました。

 彼はあるときは戦争のために外国に喧嘩を売ってくるように頼まれました。またあるときはその戦に勝てるように同盟国を見つけてくれと頼まれました。他にも依頼人をいじめた人種を痛めつけて抹殺することを頼まれ、また別の依頼人は大きな壁を作ってくれと言ってきました。彼の返答は全て依頼人に肯定的でしたが、


「金、もしくはそれ以外の価値のあるものを寄越せ。それだけでいい」


必ず最後にこの事を述べて、どこかへ消えていくのです。

 そのとき彼はまず、外国に喧嘩を売りました。それも戦争するなら大きな国をと思い、依頼した者が金を納めている列強国に条約について不平不満を言いました。


「お前らなんかに金なんて払いたくないんだってさ」


声を荒らげました。そして、後日に敵国となる国が軍備を整え始めました。依頼は成功でしょう。

 さぁ、そうなってくれば大国の一方的な虐殺になってしまうので、二人目の依頼人に頼まれたことを実行します。同盟国の確保です。彼は似たような窮地に立つ国に目を付けました。


「君たちは同じ穴の狢だろう?このまま大国の思い通りになっていて嫌では無いのかい?さぁ、手を取って」


ふたつの国を同盟に引きずり込みました。勝ち目は薄いだろうとは思いましたが関係ありません。依頼はこれで達成です。

 戦争が始まりました。大国に対して意外にも戦えているものです。指揮官様は三人目の依頼者。戦争の最中ですが、彼が嫌う人種を探し、確認をすることから始めました。


「こいつらで間違いないでしょうか?なら家族や血筋すべて集めて、息でも出来なくいたしましょう」


監獄に隙間なく人のような物体を押し込みました。そして、そのまま持ち場へと帰り、毒を与えました。依頼は完遂しました。誰に責任があるのか知ったことではありません。

 結果として、依頼人の国は負けました。彼を見つけた三人の依頼人はほどなくして全員が死亡。代償として財産を、寿命を、人望を捧げた結果でしょうか。4人目の依頼人からは


「この子が貴方と結婚して孫の顔が見れるくらいになったら壊される壁を僕の代わりに作って欲しい」


そう言われ赤子を渡されました。

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「お噺はここまで」

「寿命を貰うのなら、彼はどこかで生きているかもしれません」

「また明日も語りましょう。紡ぎましょう」

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