第十八夜『悪魔と箱の噺』
「ごきげんようあなた様。今宵は下らない掛けことばでもいたしましょう」
「それは十八番の十八夜」
『悪魔と箱の噺』
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あるところに一人の悪魔がおりました。その容姿は柔らかな肌に包まれた幼子のようですが、彼もれっきとした大人の男性です。人間とは時の流れ方がまるで違うのです。そんな悪魔は普段のように人間から隠れ慎ましく暮らしていました。しかし、
「なにもすることが無い。はっきり言って暇をもて余している」
彼の住まうのは家具も無ければ、伴侶も何もない空間。一つの箱だけが置いてあり、壁紙に岩をシャンデリアの代わりに鍾乳石をあしらったところでした。
この状況を打開したいと考えた悪魔は人に化けて、人里へとおりることを決意します。もしかしたら祓われるかもしれないという不安もありましたが、人間の技術力だけは面白いので好きだったのです。しばらくの時間が経っていますが、悪魔は以前にも人間を観察しに人里へおりたことがあるのです。自分の容姿のために仲良くなる者は例外なく子どもでした。おいかけっこをしたり、一緒にボールを蹴ったり、
「今日は楽しかったよ。これは僕とおそろい。あげる」
人里におりると常になにかしらを貰いました。あるときはバッジを、あるときは花の冠を、またあるときは本を。
しかし、悪魔と二度遊んでくれる者はおりませんでした。悪魔が次に人里へ行った時には共に遊んだ子どもはどこかへと消えていってしまうのです。その度に悪魔は泣いてしまいます。何十回、何百回あったことなのは分かっていても辛いのです。
「あの子と似た人みーつけた」
悪魔はまず人間を見に来ては大人を殺します。前の時の子はどうせ居ないのだから期待はしない。せめて似た大人を求めるのです。しかし、悪魔は大人を嫌っておりました。自分の見た目では適当にあしらわれて終わってしまうから寂しいのです。その寂しさを紛らわしたいがためだけに人を殺します。洞窟の周辺に埋葬をするのです。
そして、その後大人の近くにいた子どもに声を書けるのです。
「初めまして。一緒に遊ばない?」
「いいよ」
このやり取りは何度目になったでしょうか。子どもと遊びました。今日はハンカチを渡してくれました。淡い青色をしている布地に紫の花があるハンカチ。悪魔はこの花に見覚えがありました。
「これお家の紋章…?アイリスっていうお花なの。君のお家でも使っていいよ」
「私の足にも模様ついてるの」
悪魔はとてつもない虚無感に襲われました。住みかに帰った悪魔はそこに一つある箱を開けます。いままでの子どもたちから貰ったお宝のようなものです。そして、彼が目にしたのはたくさんのアイリスの花でした。悪魔はその涙をアイリスの紋章で拭くのでした。
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「お話はここまで」
「勝負ごとでも何にでも十八番というのは大切ですね」
「おしゃべりが過ぎました。また語りましょう。紡ぎましょう」
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