第十七夜『ミス・ルトウの噺』

「若者の恋物語というのは良いものですね。青い春。あなた様にはありました?」


「これは失礼いたしました。まぁ、とある伝承を第十七夜としましょう」


『ミス・ルトウの噺』

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 むかしむかしあるところに美しい女性がおりました。彼女の名はルトウ。彼女の美貌は数多くの男を惹き付けました。そして、彼女もまた恋多き乙女でありました。一夜限りの関係も同時に十数人に関係を持つこともしばしばありました。

 ある夜は金持ちの商人と、またある夜は筋骨隆々の獣のような男と。


「気持ちよくなりたいの。いいでしょう?もっともっと」


脳が蕩けるような素晴らしい夜を過ごしました。しかし、強いて問題を挙げるとするならば


「ねぇ、貴方?気持ちよくしたいのよ。早く」

「ねぇ、なぜ動かないの?これから最高の夜を過ごすのに」

「あぁ、貴方ももう使えなくなってしまったのね。愛しい人」


ルトウの相手の男は長続きしないことでした。決して嫌いになったとか、金の問題などではありません。


 彼女のたった一つの望み。


「私の愛を受け止めてくれる人はどこ?」


彼女の激しい愛を受け入れ、受け止める者が現れるのを望み、待ち続けました。床に入った瞬間に彼女はケダモノへと豹変します。いくら色欲にまみれた男であっても、ルトウにはただの雄として認識され、喰らい尽くされます。激しく、それでいてゆっくりと相手の体力を吸い取るように、彼女の蝕むような夜に耐えられる男はおりませんでした。

 共に夜を営んだ者が枯れるように壊れていくことから彼女は宿り木の女と呼ばれました。宿り木のルトウ嬢。彼女にはそんな異名が付きました。


「なんで、皆して私を避けるの?もっともっと愛を頂戴?頂戴な。ねぇ」


 彼女はそれからも愛せる男を探しました。一生を共にできる男を、共に生きて子孫をのこしていけるだけのそれは優秀な雄をひたすらに探しました。どの男に向けた愛情も、一片の偽りすらない本物の愛情でした。しかし、彼女から溢れるそれは些か強すぎるのでした。


「また、愛しい人が消えていった。私のせいで枯れた。なぜいつもこうなるの?」


 ミス・ルトウは男の数が五十を超えるころには数えることを諦めました。彼女はいつものように失意します。今回は自分の愛に応えてくれる最も素晴らしい人だと信じていたのに消えてしまいました。我慢して、我慢して、たった一度の口づけで終わってしまうとは。彼女は涙を流しました。身体中の水分を失くし、己のその緩いケダモノの身体を呪いました。快楽を湯水の如く使った彼女は枯れ、その地面からは一本の宿り木が育ち、青空で小鳥が鳴いておりました。

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「お噺はここまで」

「すこし刺激が強かったでしょうか」

「また、刺激的な夜を語りましょう。紡ぎましょう」

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