第十六夜『夢見る毒壺の噺』

「またお越しくださったのですか。嬉しいことこの上ありません」


「あなた様は蠱毒というものを知っていますか?とてつもない毒を溜め込んだ壺です。今宵は孤独な十六夜」


『夢見る毒壺の噺』

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 むかしむかし、とある東邦の大陸には素晴らしい王がおりました。領民たちには多くの子どもを産むように指示をし、大して高くもない給料で仕事をさせるように政治を執り行いました。国王は贅の限りを尽くした素晴らしい王でしたが、領民たちからは不平不満が溢れだしました。

 そんな圧政が二十年ほど続いた頃。放浪者が王国へやって来ました。領民たちは藁にもすがる思いでこの圧政をどうにかできないか相談しました。


「旅人さま。この王国の圧政をどうにかできないでしょうか。ぶくぶくと肥え太った王をその座から引きずり下ろしたいのです」


旅人は困りました。自分と関係のない土地の政に関わると、ろくなことにならないと分かっているからです。

 そこで領民たちのために一つ考えを巡らせました。


「この壺に虫や毒草を混ぜるといい。触れたらお前たちが死んでしまうが、恨みを込めて毒を込め、幾年もかけて毒を育てるといい。私はこの件に関して何も関わらない。いいな?」


そう言って小さな壺を置いていきました。領民たちはその壺の毒を育て始めました。

 それから数年をかけて壺の毒を育てました。そして、暴君を暗殺することを決めた暗殺決行日。王が宴会をしている最中に盃に毒を仕込みました。その結果、東邦の王国で圧政は無くなりました。


「これで領民が安心して暮らせる」


王国に安寧が訪れました。

 しかし、王を殺した毒が入っていた壺にはまだ毒が残っておりました。誰も直接触れることが出来ないような猛毒。もう王を殺してしまったが故にもう存在意義が無くなってしまった悲しき猛毒。


「私は人を殺めるために生まれてきた。しかし、もう使われることはない。長きに渡り人の恨みを喰らい続けた私が出来ることはもう何もない」


その猛毒は意思を持ちました。恨みにて生まれてしまった毒は罪の無い領民たちをも殺めてしまいました。


「私は人を殺めたくないのに。悲しい悲しい。人を救うことはもう私には出来ないのか。領民たちの願いを叶えたかっただけなのに」


そう言って毒の壺は意図せずに人を殺め続けました。

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「お噺はここまで」

「何事も行きすぎるといけません」

「また明日も語りましょう。紡ぎましょう」

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