第十五夜『傷つけられない刃の噺』

「今宵は少し物騒な物語でもいたしましょう」


「愛する者がいた第十五夜」


『傷つけられない刃の噺』

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 むかしむかし、ある島国がありました。その国では海に囲まれているものの資源が豊富にあり、独自の文化が発達しました。資源と技術が素晴らしいものであったがために周辺の大国から攻め込まれることもしばしばありました。そのたびに水軍を使い敵を追い払いました。幾度も防衛戦を繰り返すたびに軍備は増強され、島国の兵士の数は増えていきました。

 ある年の冬のことでした。北方から海を隔てた帝国が大規模な戦争を仕掛けてきました。資源や人材が欲しかったのでしょう。植民地支配を持ちかけ、戦までへと発展しました。その北方からは騎士団長が率いるひとつの部隊が攻め込んでくるということでした。水軍を取りしきる長は自身の背丈ほどある刀を磨きながら、ギルバートという帝国の団長の名を耳にしました。

 一年の終わり頃に戦は始まりました。帝国の兵力は一万前後。対して己が率いる水軍はその倍の人数はおりました。砲撃をするための火薬もじゅうぶんにあります。いざとなれば自身の刀で切り捨てれば良い。この戦争では負けることはないだろうと思っていました。投降するなら逃がしてやろうとも。

 しかし、彼らは全くもって退く様子はありませんでした。互いに兵を消耗させ、長引き、拮抗し、実に不毛な戦いとなりました。ひと月以上そんな状態が続いたある夜に彼の前に男が現れました。


「お初にお目にかかる。私の名はギルバート。我が王のため、我が国のためこの戦いを終わらせに参った」


 ギルバートはそう言って大剣を構えました。それに応えるように長も背中から刀を持ち出しました。


「これで終わらせましょう。妻も息子もいるのです。貴方もそうなのでしょう?」


まっすぐと敵へ向かっていきます。刃が敵の胴を貫いたのは寸分違わず同時でした。

 目を覚ますと水軍の者たちが安堵のため息を漏らしました。そして、刀の方に目を向けると、騎士団長を貫いた血はキレイさっぱり無くなっていました。


「ギルバート団長は亡くなりました」


長は刀を手入れしながらその報告を聞きます。

 騎士団長が亡くなったことの影響か帝国からの襲撃はもう長きにわたってありません。水軍の長は部下たちを率いながら刀の手入れをしていますが、ギルバートの血が無くなってからはどうも切れ味が悪く、何も切れなくなってしまいました。長は帝国と水軍の者たちを考えながら、いくつもの星がとばされる夜に長い刀を見つめていました。

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「お噺はここまで」

「なまくらの刃でしたか」

「私はなまくらの噺しかできませんが、語りましょう。紡ぎましょう」

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