第十三夜『道化の噺』
「今宵は面白おかしい物語をひとつ」
「悲しい男の十三夜」
『道化の噺』
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むかしむかしある夫婦がおりました。夫は妻を愛し、妻もまた夫を愛しました。自分の伴侶がどれほど素晴らしいものであるかを見せつけるように。また、確かめ合うかのように。
「貴方より優れた男はいないわ」
「俺だって君がいれば他に何もいらない。神よりもなによりも君が大事なんだ」
そんな夫婦は子宝に恵まれたようです。十月十日の二人の愛の証。これからはもっと愛に溢れた生活になるはずでした。
「お前はいらない」
女は自分が産んだ男児を捨てました。夫と二人で居たかったのでしょうか。その赤子はこの世の掃き溜めのようなところ、貧しく卑しい者たちの住みかへと捨てられました。
薄汚れた服を着た子供たちは目を輝かせます。白塗りで赤っ鼻の道化が白と紫の縞模様の大きな玉に乗ったり、不思議な形をした青い棒をいくつも投げてはつかみ取っているのですから。その道化は黒い服に身を包んでいます。子供たちの目には輝いて見えたでしょう。道化の芸も、染める金がなく、砂にまみれた白なんてどこを見ても無いことが。
あの道化師のようになりたいと思った子供たち。一人は翌日から空き瓶を集め投げ始めました。まるであの道化のように。最初は誰だって失敗します。瓶が割れ、破片が少年を掠めます。頬から赤い血が流れておりました。彼は自分の指に血を付け、そのまま鼻を触りました。
その赤鼻で思い出したのは自分を追い出した酒飲みの父の顔。そして赤鼻でも輝いて見えた道化師。どうせこの空き瓶を捨てているのも親父と同じようなろくでなしだろうと思いながら、半透明な瓶を投げて練習を続けました。
それから長い時を経たある日のこと。都会に二人の道化師がやってくるとのことで人々が集まりました。目を輝かせた子ども、大人、老人、高級そうな服を纏う老夫婦、飲んだくれの野次馬。それはもうさまざまに。
客の瞳には二人の道化師が映ります。
「さぁ、皆さま楽しいショーの始まりです。道化師という者は常に孤独なものですが玉乗りでもしますかねぇ」
「子どもたちよ。目を輝かせて見ていなさい。道化師という者はろくでなしさ。世の中にはもっとろくでなしも居るけどね」
玉乗りをする黒服の道化師とジャグリングを披露する白いスーツの道化師はそう言いました。
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「お噺はここまで」
「楽しんで頂けましたか」
「ではショーを見たいのでまた明日。語りましょう。紡ぎましょう」
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