第十二夜『剛力の死神と跡継ぎの噺』

「本日もお越しになりましたか。私は怖いのです。あなた様との時間が心地が良い故に」


「少しおどかすためにも第十二夜」


『剛力の死神と跡継ぎの噺』

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 むかしむかし、ある土地では天寿を全うした人間を天海へと連れていく死神がおりました。天国へと行くのか、地獄へ行くのか。そういったことを決めるのはまた別の存在です。死神という存在は生者が霊としてこの世に留まらないようにすること。その一点のみが仕事です。死神は天界から使命を与えられます。

 その死神は死者の肉体と精神を自慢の太い腕で引きちぎります。老齢で立派な髭を蓄えている熟練の死神の技術では肉体と精神の分離はそれはキレイに行われます。武器を使わない。その肉体のみで天界へと連れていくのが古来からのしきたりでした。


「もう年か……。魂を分離させているのに死者の数がまるで減っていない」


剛力の死神は時の流れの無惨さを感じます。死神として任についてから、修行と研鑽を重ねてきた証の筋肉。岩をも砕き、魂を分離させていた肉は痩せ細りました。それでも人間程度の力をはるかに上回っていますが。

 死神は自身の跡継ぎを探しました。もともと天界に居たものも新たに魂を連れていく者も見境無く。死神は天界にとって欠かせない職、故に待遇もいいのです。大工をしていただの格闘家だっただの述べるもの余多おりました。しかし、近頃は死者の数が増えています。その昔、子宝に恵まれた世代がありましたが、それを境に人が産まれ、比例するように死者も増えました。今から死神に育て上げることは困難を極め、恐らくは一人の手では足りないでしょう。 

 死神は天界にある提案をしました。


「そろそろ死神に道具を持たせてはいかがですか」


すると、奥から二名が現れました。どちらかを後任として選んでいいそうです。一人目は剣士でした。この刃で魂を切って持ってくればいいでしょう。二人目は射手でした。その弓で急所を射抜けば、より多くの者を連れてこれるでしょう。

 しかし、死神は長い髭を触りながら歩きだします。彼が選んだのは農家の男でした。その手に持つのは大きな鎌。


「草を刈るように簡単に、そしてあっさりと済ませてやってくれ」


そんな死神の願いを農夫は受け入れました。剛力の死神の願いは届き、跡継ぎは死神として淡々と天界のために鎌を振るっています。

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「お噺はここまで」

「あなた様にとっての死神はいったい誰なのでしょう?素敵な死を迎えるなら悪くないでしょう?」

「死神に会う前に私のところへお越しください。語りましょう。紡ぎましょう」

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