第十夜『純白の姫君の噺』
「今日は姫様の物語でも語りましょう」
「どこぞの石で口を漱ぐ先生様なら終わっている第十夜」
『純白の姫君の噺』
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むかしむかしとある王国にてお姫様が誕生しました。国民たちは大喜びし、宴は三日三晩続きました。それから数十年の時を経て、お姫様はそれは美しく成長し、皆の憧れとなりました。彼女の白い肌は何者も汚すことを許されないような、実に神聖なものとなっていきました。
彼女は神の使いなのではないか。そんなことを言われたのは数えて十七になった冬の日の事でした。作物が枯れるような寒さと真白の雪が降り積もり、食糧の備蓄が底をつくのだろうと誰もが思いました。しかし、彼女は言いました。
「なぜ人々はあの雪の中で作業をしているのでしょうか?せっかく雪が降っているのだから白銀の大地で遊べばいいじゃない」
そんなことを言って、白いドレスのまま城の外へと走り出しました。すると、空はそれを見ていたかのように晴れたのです。
彼女は何が起きたのか理解が出来なかったでしょう。なんせつい先ほどまで季節は冬であり、雪が降り積もっていたのに、上には青空と照りつける太陽。そして、茶色い土が顔を覗かせているのですから。
「姫様は豊穣の神の使いだ」
彼女はそう呼ばれるようになりました。
国民から神の使いとされてから、十八の冬、十九の冬と城の外へ行くことになりました。冬の間は白いドレスを身につけて舞をするのです。雪を止ませて、太陽を出す儀式です。姫君が七十日ほど祈りを捧げれば雪が止みます。常人には不可能なことでした。
彼女はいつものように城の外へと赴きます。二十になる冬の事でした。
「私が舞えば冬はどこかへ行ってくれる。私は神の使いです。私がひと月でもふた月でも半年でも舞って、舞って、舞い続ければ作物が育つのだから」
そんなことを考えながらいつも通り、雪の最中に農作業や仕事をする全ての国民に届くように舞い始めます。
「純白の姫君が舞い始めたから太陽がでてくるぞ」
ある農民はそう言いました。
彼女は舞い続けました。国民のために、命あるものに試練を与える冬を倒すために。ひと月、ふた月、みつ月、もっともっと舞ったのでしょうか。しかし、雪は止みません。
「雪の中を走りたかったなぁ」
そんな愚痴を溢しながら舞いました。ある雪の夜。姫の意識が遠のきます。大して食べる訳でもなく、寝る訳でもないので限界が来ました。
彼女は最期に雪に手を振れながら、白に埋まっていきました。朝日によって雪は溶かされ、純白の姫君はその役目を終えゆっくりと眠りました。
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「お噺はここまで」
「白いものは汚れてしまいます」
「また明日、語りましょう。紡ぎましょう」
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