第八夜『死にたがりな誰かの噺』
「あなた様に本日も語りましょう」
「私もこの物語の主人公は知りません。では第八夜」
『死にたがりな誰かの噺』
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むかしむかしからある場所では死にたがりが産まれます。それは定期的ではなく、ある日、ポッと出てくるのです。理由は古代の人々は言いました。食べるものが無くなれば、瞬く間に私たちは生というものから離れなければならない。それなのにどうして自分から死にたがるのか分からない。どうしても生きるのが嫌ならば己に刃でも向ければいいだろう。その考え方が大きく変わることはありませんでした。
母体から生きる命を与えられ、産まれ、そして死にたがる。五十年か六十年で人は死ぬというのに不思議なことです。どうしてもこの死にたがりの謎を解き明かしたいという研究者たちがおりました。彼らは死にたがりを集めました。十人ほど、実験をしたいのに研究者は名前も聞きませんでした。彼らは「死にたがりな誰かたち」という研究の対象となりました。
研究者たちによると次のことが判明しました。
「お金がない」
ある死にたがりはそう言い、またある死にたがりは
「友達がほしい」
そう言いました。人によって悩みはさまざまありました。共通しているのは、その悩みが肥大化した結果死にたがりになるのではないかという仮説が立ち上がりました。
悩みがあって死にたがるのなら、悩みを無くせば死にたがりはどうなるのだろう。一人の研究者がそんなことを思い付きました。そして、研究者たちは死にたがりが望むものを与えて悩みを無くすことにしました。お金がない者には一生遊んで暮らせるお金を与え、友達がほしい者には同じ年頃の人物を可能なかぎり紹介しました。これで死にたがりの要因である悩みは解決に向かうでしょう。研究者たちはもう死にたがりの不思議を解明したと喜びました。おまけに十人の悩みを解決して、生きようと考えさせたのですから大成功でした。
しかし、一週間ほど経ったころに研究者は死にたがりだった人々のもとへ訪問してみると、彼らの目は全く輝いていませんでした。誰ひとりとして悩みは無いはずなのに、以前までと同じ死にたがりの目をしておりましま。研究者たちはもう白旗をあげました。名前もろくにわからない。ねずみのように実験のための数はいるはずです。どの時代でも変わらずにです。この不思議の研究はいつ終わるかわかりません。
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「お噺はここまで」
「このお噺はいつの時代でしょうね」
「お暇でしたらまた語りましょう。紡ぎましょう」
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