第三夜『止まらぬ時計の噺』
「また、来ていただきましたね。二度あることは三度あるというのも、あながち嘘では無いのかもしれません。あなた様に会えることを楽しみにしておりました」
「今宵、語るのはもう決まっております。第三夜」
『止まらぬ時計の噺』
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むかしむかしあるところに一人の男が居りました。その男は半世紀に渡り、時計職人として名を轟かせました。彼の暮らしている街は霧が濃く、空は青く澄んだものとは程遠い鉛のような空でした。明かりも満足に無い場所ですので、人々にとって時計はとても大切なものでした。
そのため、彼は唯一の職人として時計の修復も行っておりました。山の麓にひとりではもて余すであろう大きな屋敷で作業をして。
「お前……これもう何回目になると思ってる?いい加減に新しいモンを使ってくれ。おら修理できたぞ」
口は良くない、何なら偏屈爺と人々には呼ばれていましたが、腕は確かで皆に好かれてもいました。
「お爺さん。頼まれてた部品やらネジやら持ってきたよ。一体どんなものを作ろうとしてるんだい?もう置場所なんて残ってないだろう。しかしまだまだ現役だねぇ」
そんなことを言われましたが、ひとつだけしなければいけないことが彼には残っていました。自分が仕事をできるうちにやっておかなければ、死後も未練によって成仏できないと感じていたのでしょうか。
彼はさっき貰った部品や工具を持って、屋敷の奥の部屋に消えました。そこ屋敷の中で最も大きな部屋です。街の人々はどんなにすごい時計を作るのだろうかと心待ちにしておりました。ある者は寸分狂わず百年の時を刻む時計を作っているのだろうと。ある者は世界中から見ることができるそれは大きな時計を作っているのだろうと。ある者は宝石が人形となり、躍りを見せるような仕掛けの時計を作っているのだろうと。各々が勝手に想像しました。
結局のところ、そんな予想はすべて外れていました。彼が消えてからしばらくして、ひとり屋敷から出てきました。
「すみません。ここはどこでしょうか。」
彼女はその問いを懐中時計を持つ紳士に投げ掛けました。
「ここは霧の街です。太陽が顔を覗かせることはそうないので、皆時計を持っているのですよ」
彼女が目覚めた時、一枚の手紙がありました。手紙というにはあまりにもボロボロの紙ペラにミミズのような字で以下のように書かれていました。
お前の時計はお前の時代の五十年後に時刻を合わせておいた。まだ、誰も手をつけていなかった。新品の美しさのまま時計が止まっていたから調整したのだ。お前の名前はアミュだ。もう俺は引退する。だから、お前の修復はできない。幸せを願っている。
街の時計たちは変わらず動いていました。ですが、修理をする人間はもう何処かへと消えてしまいました。
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「お噺はここまで」
「お時間大丈夫でしたか?今も時は刻まれていることをお忘れなく」
「お暇があるようでしたらまた私は語りましょう。紡ぎましょう」
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