第二夜『紅い木と農民の男の噺』

また、こちらへ来たという事は眠れないのですね。私としてはとても喜ばしいです。こんなにも早くあなた様に再会できたのですから。また語りましょう。紡ぎましょう。私にはそれしかできません」


「この季節は肌寒くなって参りました。木々も葉を落とし始める頃合いでしょう。せっかくですから二夜目はこれに致しましょう。」


『紅い木と農民の男の噺』

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 むかしむかしある村にみすぼらしい男がおりました。彼の名はクリム。都で行商人から水とパンを奪い、この村へと逃げるように行き着きました。その村の土壌は肥沃で、村の人々は畑を耕し、農民として暮らしていることが分かりました。食うものに困っていたクリムには、この村の暮らしが輝いて見えました。

 都で腐りきった生活をするよりも、汗水垂らして腹一杯の飯を食うことが幸せだと思ってしまいました。


「俺も農民として暮らしたい」


クリムの中でそれは強い決意になりました。村の空き家と荒れ果てた農地をお婆さんから頂きました。


「クリムとやら。ここで暮らすといい」


人の優しさに触れたのは、彼にとってそれが初だったかもしれません。

 しかし、彼に対する周囲の風当たりは良くありませんでした。よそ者として認識されていました。もしくは、村の中でクリムの存在は無いものとされていたかもしれません。


「クリムや、今年は豊作なのかい?」


話し掛けてくれたのはお婆さんだけでした。


「えぇ、平年通り」


クリムはそう返しました。

 そんな何度目かの秋に幸せを感じていました。


「しかし、村の者もなかなかお前を認めてはくれないか。また気晴らしに森にでも出かけるのかい?」


「なら、とっておきの場所がある。東方から来たとされる木があってな。なかなか気難しい奴なんだ。場所を教えるから行っておいで」


 クリムは地図をお婆さんから受け取り、その木へと向かいました。普通の木とは違うから見ればわかると言われました。地図の場所に着くと、その意味が彼には分かりました。木々が何本も生えるなかで経ったひとつ。紅い葉を持つものがいました。まるで頬を赤らめるかのように。クリムは紅い木、そして夕暮れの空という二人の友人を見つけました。

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「お噺はここまで」

「少し短かったでしょうか?」

「紅い木というものを見てみたくはありますが、私は語り部ですので。また眠れない夜は語りましょう。紡ぎましょう」


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