星の数ほどある夜に

伽灯ショコラ

第一夜『とある語り部の噺』

「眠れないのですか。ここで出会えたのも、きっと何かの縁でしょう。どうせなら眠れるまで、私がお話をして差し上げましょう」


「あなた様との初めての夜……一夜目はそうですね」


『とある語り部の噺』

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 むかしむかしある所にそれは美しき女性が居りました。村一番の美人だった彼女には、縁談がとても舞い込みました。


「こんな美しい人が我が妻であれば、私の面子もどうにかなる」


「俺はここら一帯を取り仕切る商人だ。金に苦労はさせない」


誰もが自身の自慢にするために彼女を利用し、不自由ない生活をさせることを条件にしてきました。しかし、彼女には誰も魅力的に見えなかったのです。

 そんな中で唯一、素敵な人が居りました。彼の名はギル。国を守ることが使命の騎士様です。まっすぐと国のために戦う彼がかっこいいと感じたのでしょう。二人はすぐに惹かれあい、結婚しました。


「おい」


「何でしょうかギル?」


「今日の戦闘の中じゃあ僕が一番活躍したんだ。昇進も近いだろう。一師団くらいなら任せられるかもしれない」


「なら今夜はお祝いしましょう。腕によりをかけます」


そんな会話が聞こえる幸せな夫婦でした。

 それから数年が経ち、仲睦まじい二人に子供が産まれました。大変なこと、苦労する子育て、でも楽しくて更に幸せな三人での生活でした。しかし、ギルの職業は騎士です。国のための戦争へと行かなければなりません。なんせ彼は騎士団長なのですから、指揮をしなければ味方が総崩れになってしまいます。このとき娘はまだ言葉も話せません。何も分かっていなかったでしょう。

 戦争は敵国が優勢でした。ギル達もやれるだけのことはやったでしょう。そんな努力は虚しく、敗戦しました。ギルは優秀な戦術で人数差をひっくり返しましたが、そのおかげで双方に死者が大量に出ました。その中にはギルの名前も刻まれていました。


 「ギル。あなたはよく戦いました。何故逃げなかったのですか?国のため?正義のため?私はそんなあなたが大好きです。いつ帰ってくるのですか?」


彼女は失意に暮れました。夫が死んだ戦争について調べ始め、戦うことの怖さを少年少女たちについて教えることに決めました。そのたびに大量の灯籠をとばして。


「いいですか?戦争を繰り返せば、たくさんの物が手に入ります。しかし、敗者は多くのものを奪われます。負けないように負けないようにと終わりのない戦いをすれば、双方のものがなくなります。私の夫もなくなりました」


「夜空に輝く星くらい。人が死にました。灯籠をとばして弔ってやってください」


 彼女は三千の夜空に灯籠をとばした頃に、ギルの元へ行くと言い残し何処かへ消えました。娘は独りぼっちになりましたが、親がまた夜空で結ばれたと思い、語り部をしています。

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「お噺はここまで」

「如何でしたか?星の綺麗な夜はこの噺がいいですね」

「また眠れない夜はこちらにいらしてください。なんせここには私だけで時間はありますから」


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