第55話 絵に描いた星空

 六実さんに星が出ていると言われ外に出てみれば、そこには、彼女が言うように、満天の星空が広がっていた。


 東の空にはオリオン座が見える。

 シリウスにプロキオン。

 カペラにアルデバランに、双子座の兄弟星。

 その間を、冬の天の川が、カシオペア座の方に流れているのがはっきり見える。


 星が多すぎて星座がわかりづらいほどだ。


 星座を確認するには、もう少し、星が少ない方がいいな。

 そう思った瞬間、星空に輝いていた星の数が減った。


「そうそう、このくらいの方が、星座はわかりやすい……って、そうじゃないだろう。なんで私が思っただけで、星の数が減るのよ?! おかしいでしょ! ただの偶然よね?」


 私を追って、後から出てきた六実さんが、急に喚き出した私を見て心配そうにしている。

 でも、今は、それどころではない。


「もしかして、時間送りもできちゃったり……」


 星空が、ゆっくり回りだした。


「えっ!」


 これには六実さんも驚いたようだ。


「南天の星空も見てみたいなー。なーんて」


 今度は星が南から登りだした。


「女神様!」


 あーあ。六美さんが跪いて、私を拝みだしてしまった。


「現在地、現在時間、標準の明るさに戻して」


 星空は何もなかったように元の状態に戻っていた。


「六実さん」

「はい! なんでしょう、アキコ様」


「今のは見なかったことにして」

「見なかったことに、ですか?」


「お願い」

「アキコ様がお望みでしたら、そういたします」


「それじゃあ、よろしくね。私はもう寝るわ」

「はい。暖かくしてお休みください」


 そういえば、薄着のままだった。

 少しの間といえ、かなり冷えた。

 さっさと布団に入ってしまおう。


 現実逃避で、もう寝るしかない。


 翌日目を覚ましたのは昼前だった。


 なぜかアルフがそばにいた。

 まだ、夢を見ているのだろうか。


「なぜ、アルフがここにいるの? ここ、お寺の部屋よね?」

「朝になっても目を覚さないからと呼ばれたんだ」


「そう。――って、どうやって?」

「病院の病室に書き置きがあった」


「まだ、あの病室を覗き見してたの?」

「監視だよ監視! アキコが攫われてからずっと探していたんだ」


「そうなの? それはありがとう」

「しかし、今回は、随分な物を想像したな。もう、目覚めないんじゃないかと心配したぞ」


「寝てたのは半日だけ?」

「そうだ。あれだけの星を創造しておいて、よく半日で済んだものだ」


「星といっても、本物じゃないからね。空に星空を映しているだけなのよ、きっと」

「よくわからんが、幻影ということか?」


「多分、そんな感じ。大きさも重さもないから、この程度で済んだんだと思う」

「それにしても、不用意じゃないか。もしかしたら、一生目を覚さなかったかもしれないんだぞ!」


「私も創造したくてしたわけじゃないのよ。ここに来てから流星を創ろうと思ってもできなかったから……」

「流星を創れなかったのか?」


「そうよ。だから、油断してたのもあるけど、何が引き金になっているんだろう?」

「後で、詳しく状況を聞いて検証してみる必要があるな」


「ところで、六実さんは?」

「彼女なら、お昼の準備をしている。お昼までには目覚めるだろうと言っておいたから、もうすぐ来るだろう」


 アルフの言葉通り、さほど間を置かず、六美さんがやって来た。


「アキコ様、お目覚めになったのですね。よかった」

「心配かけてごめんなさい。六実さんがアルフを呼んでくれたの?」


「はい。朝、お目覚めにならなかった時はどうしようかと思いましたが、アキコ様からアルフ様の話は聞いていたので、もしかしたら、まだ覗き見してるかもと思って、看護師さんに頼んで伝言を書いてもらいました」

「そうなの、ありがとう」


 アルフが「いったい何を話しているんだ。覗きじゃない! 監視だ監視!」と言っているが、今回は無視だ。


「そうすると、他の人は私が目を覚さなかったのは知らないの?」

「はい、連絡すると、どうしても、昨夜のことを喋らないわけにはいかなくなりますので」


 私が、見なかったことにしてくれと言ったので、それを守ってくれたのか。

 その上で、私の体調を心配して、状態が分かるであろうアルフを呼んでくれるとは、なんてできた女性なのだろう。

 こんなところで、私の世話をさせておくには、もったいない人だ。


 しかし、六実さんが黙っていても、突然星空が戻って、変な動きをしたとなれば、世間は大騒ぎなのだろうな。


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