第54話 お寺での生活
山奥のお寺に攫われた時は、すぐにでも警察が助け出してくれると考えていたが、ここに来て一月も経つのに、その気配がまったくない。
いったい、日本の警察は何をやっているのだろう。
アルフたちも探してくれていると思うのだが、そちらも音沙汰なしだ。
護衛だったレイアは、きっと怒られているだろうな。
こうして、呑気に考えていられるのも、ここの暮らしが、それほど悪くないからだ。
身の回りのことは、六実さんが、それこそ、上げ膳据え膳で、全てやってくれるし、たまに信者の方々に顔を見せれば、大喜びされ、それでお金がもらえるし、で、一月も経てば、この怠惰な暮らしにどっぷりとはまっていた。
あえていうなら、アルフに会えないのは寂しいので、アルフだけでも連絡が取れないだろうかと考えている。
でもその寂しさも、カンナちゃんのおかげでだいぶ癒されている。
カンナちゃんは、両親を事故で失い、引き取られた親戚で虐待されていたところを、お寺に助けられたそうだ。
虐待するくらいなら児童養護施設にでも預ければいいと思うのだが、周りの目を気にしてそうできなかったらしい。
まだ、小学校にあがる前のカンナちゃんは、毎日のように私の所に遊びに来てくれている。
私は、絵本を読んで聞かせたり、一緒になって遊んだりしている。
上手いこと子守に使われている気もするが、こちらが癒されるのも事実である。
「ねえ、アキコ様」
「なあにカンナちゃん?」
「アキコ様は、本当にお星様を創れるの?」
「創れなくはないけど、創るの大変なのよね――」
「そうなの? お星様を見てみたかったけど、大変なんじゃ無理だよね――」
うっ! できれば見せてあげたいけど、実は、ここに来てから流星も創れなくなっていた。
カンナちゃんに見せてあげようと思ってやってみたのだが、うまくいかなかった。
それが、地球にいるせいなのか、それとも他に理由があるのかわからない。
「カンナね。前に丸いお屋根のお家を見たの」
「丸いお屋根?」
「うん。まん丸なの。そこではお星様が見れるんだって」
「そうなの――」
望遠鏡を納めるドームがある家なのだろうか? そんな家に私も住んでみたい物だ。
「カンナも見たいって言ったら、小学校に行くようになったら、パパとママとカンナの三人でこようねって……」
「お父さんとお母さんと約束したのね――」
今まで元気に遊んでたのに、亡くなった両親を思い出して、泣き出しそうなカンナちゃん。
私も、お涙頂戴モードで、うるうる来てしまう。
こんな時はどうしたらいいのだろう。
私が代わりにその家に連れて行ってあげればいいのかな? でも、今は星が無いんだから、連れて行ってあげても星は見れないのか。
あれ、でもそれ、本当に普通の家なのかな?
カンナちゃんは家と言っているが、小学生になったら家族みんなで行こうと約束したなら、もしかするとプラネタリウムかもしれない。
それなら連れて行ってあげることはできるが、私が連れて行ってあげても意味ないのかな――。
「お星様がいっぱい見れるんだって――」
「本当なら、ここでもお星様がいっぱい見れたはずなんだけどね――」
こんな山の中なら、きっと綺麗な星空が見れたことだろう。
カンナちゃんのためにも、どうにか星空を取り戻せないかな。
例えば、プラネタリウムのように、本物の星でなくてもいいから――。
そんなことを願ったのがよくなかったようだ。
夜になって、私の面倒を済ませて家に帰ったはずの六実さんが、慌てた様子でお寺に戻ってきた。
「大変です! アキコ様」
「どうしたの六実さん?」
私が最初に思ったのは、警察が助け出しに来てくれたことだが、そうではなかった。
「空に星が出てます!」
「え? 月でなく星が出てるの?」
「はい。満天の星空です」
私は、冬の寒い夜中に防寒着も着ないで、慌てて外に出た。
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