第52話 誘拐犯

 どうやら私はまた拉致されたらしい。

 しかも、今度は日本でだ。

 日本なら安全と考えていた私が馬鹿だった。


 しかし、この人たちどこの人たちだろう?

 時間が経って、催涙スプレーの効果も薄れ、目を開けて、周りを確認できるようになってきた。

 見た感じでは、どこにでもいる日本人の青年とおっさん、それに運転しているのは若い女の人だ。


 前回のアトランティスの関係者とは違うようだ。

 それに、魔王にはアルフが釘を刺してくれている。

 だいたい、ここが日本である以上、異世界人である可能性は低いだろう。


 そうなると、日本のなんらかの組織に、私のことがバレていることになる。

 一番厄介なのが、私を拉致したのが、日本の政府機関だった場合だろう。

 その場合、お父さんが警察に届けても、助けてもらえない可能性が高い。


 前回は、アルフが助けに来てくれたが、今回攫われたのは、移動中で、しかも日本だ。

 アルフが監視しているとは考えにくい。

 前回同様にアルフが助けにきてくれるのは期待薄だろう。


 とにかく、こいつらが何者か知っておく必要があるだろう。


「あの――」

「あっ。アキコ様手荒な真似をしてすみませんでした。なにぶん、こんなことをするのは初めてで、アキコ様には掛けないように注意したのですが、思ったより広がってしまって――」


「だから催涙スプレーはまずいと言ったんだ!」

「だが、あの監視役、何をしてくるかわからないだろう」


「まあ、そうだな。未知の武器を持っている可能性もあったし――」

「とにかく、無事に助け出せてよかったです」


 助け出せて?

 この人たちからすると、私は囚われていて、そこから救い出したということらしい。

 それも、その手のプロ、警察や、スパイ組織ではないらしい。


 しかし、なぜ私が捉えられていると思ったのだろう?

 いや、あながち間違いではないのか?


「ところで、あなた方は誰なのですか?」

「すみません。名乗るのが遅れて。私は、柳下隆男といいます」


「俺は、河流天成」

「画竜点睛(がりょうてんせい)?」


 ちょっと変わった名前なので、思わず聞き返してしまいました。


「いえ、がりゅうてんせい、です。河が流れて、天に成るです」

「へー。いい名前ね」


「ありがとうございます。アキコ様」


 さっきから、なんでこの人たち私のことを様付けで呼ぶんだろう?


「あのー。私は山都六実です」

「ヤマトにムツなんて、なかなか強そうな名前ね」


「はうー。そんなことないですー」


 運転している女性は、体も小柄だし、少し、引っ込み思案なのだろうか?

 とても誘拐に関わる人には思えない。


 ほのぼのと、自己紹介されてしまったが、私が聞きたかったのはそこじゃない!


「それで、私はどこに連れて行かれるのでしょうか?」

「これから、隠れ里にある本院にお連れします」


「隠れ里?!」

「そう呼んでますが、ただの、住む人が居なくなって、廃村になった山の中の集落ですよ」


「本院というのは?」

「そこにあるお寺のことです」


「お寺ですか――」


 これは――。宗教関係だろうか?


「皆さん、そのお寺の信者……、お寺だから檀家かな?とにかく、お寺の関係者なのですか?」

「そうですね」


「俺は、一応、お寺の僧侶の一人です」

「私は、お寺に助けてもらって、隠れ里で暮らしています」


 宗教関係で決まりですね。

 それに、六実さんが「お寺に助けてもらって」と言っているところをみると、駆け込み寺か、もしかすると、今回のように誘拐まがいのことを前からしているお寺なのかもしれません。


「それで、私はそこに連れて行かれてどうなるのでしょう?」

「アキコ様には、信仰の対象になっていただきます」


「それは私に神様になれってこと?お寺の場合は仏様か?」

「信仰の対象は、必ずしも、神様や仏様とは限りません。山だったり、人だったり、動物であることもあります」


「アキコ様は、アキコ様として信仰の対象になっていただければいいのです」

「でも、私、信仰されるような存在じゃないわよ」


「いえ、アキコ様は十分に信仰に値される方です」

「あの月もアキコ様が創造してくださったのですよね。夜空に星がなくなって恐怖していたところに、月が現れてホッとしました。これからも、星を創造していただけるのですよね?」


 あれー。私が星を創造できることがバレてる!どこから漏れたんだ。

 知っているのは、アルフとライラ様とヒジリ君だけのはずだ。

 そうなると、ヒジリ君か?それにしては行動が早いな?


「あの、そのことをどこで知ったのですか?」

「ああ、病院の看護師に信者がいるんです。その人に見張らせていました」


 ヒジリ君、ゴメン。濡れ衣だった。

 それにしても、看護師に監視されていたとは――。迂闊にも、結構重要なことをアルフやライラ様としゃべってたよ。というか、普通、看護師に監視されているなんて思わない。


「そもそも、アキコ様の自宅の庭に、謎の扉が現れた時点から、監視させていただきました」


 ああ、元々の原因はアルフか――。

 そりゃあ、あんなものが突然現れれば気になるよな。

 しかも、その扉を使って、見慣れない格好をした人が出入りしていれば――。


 さて、完全に身バレしてしまっているが、どうしたものだろう……。


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