第51話 退院

「それでは退院していいですよ」

「はい?」


 検証実験を行った翌日、診察を受けた医師からいきなりそう言われて私は驚いた。


「体調に問題ないようですから、自宅に戻られてください」

「このまま帰っていいんですか?」


「もちろん、窓口で退院の手続きはしていってくださいね」

「はい、わかりました。お世話になりました」


 二、三日入院と聞かされていたが、こんなに簡単に退院の許可が出るとは考えていなかった。

 アルフから、王宮に軟禁されていると聞いていたため、なんとなく、病院に監禁されていると思い込んでいたのだ。

 自意識過剰といったところだ。


 退院の手続きをしてもらわないといけないので、私はお母さんに電話をかけて、迎えに来てもらうことにした。

 しばらく待っていると、迎えに来てくれたのはお父さんだった。

 そして、外国人風の見慣れない女性が一緒だった。


「お父さん仕事は?」

「しばらく休みだ」


 お父さんは、一緒に来た女性の方をチラリと見た。

 つまり、家族はまだ監視されていて、自由に出歩けないということか。


「レイアといいます。ご自宅まで護衛をさせていただきます」

「レイアさんですか。私のために護衛なんて大袈裟ですが、よろしくお願いします」


 護衛という名の監視ね。でも、一度攫われている身としては、ありがたいことと、受け止めておこう。


 病院での手続きを済ませ、お父さんの車に乗り、自宅へ向かう。

 運転はお父さん、助手席に私、レイアさんは後部座席だ。


 レイアさんは後部座席から身を乗り出して、運転の様子を気にしている。

 シートベルトをしていても、それじゃあ意味がないのでは?


「気になりますか?あちらにも自動車はありましたよね?」


 攫われて、街に出た時にそれらしい物は見かけた。


「あっ!はい。似たような乗り物はありますが、操縦の仕方が違うもので___」

「そうなんですか?」


「私が乗っている車には、その丸い物がついていません」

「ハンドルがないのですか?じゃあ、どうやって進む方向を変えるんです?」


「ハンドルというのですか。私の車はレバーを操作して向きを変えます」


 レイアさんは、両手で二本のレバーを前後させる真似をする。


「コンバインみたいな感じか」


 お父さんが話に割り込んでくる。


「コンバイン?稲を刈るやつ?」


「アキコだって見たことあるだろ?」

「見たことはあるけど、運転したことないし、気にかけていなかったわ」


 うちも昔は田んぼでお米を作っていたことがあるようだから、お父さんは乗ったことがあるのだろう。


「こちらにも同じような物はあるのですね。そのコンバインというのは、どんな合体メカなのですか?」

「合体メカなんて大袈裟な物じゃなくて、ただの農業機械だよ。___でも、ある意味合体メカなのか?」


「お父さん!前!!」

「ウオッ!危な」

「きゃー」


 前を走っていた車が、何もないのに急ブレーキをかけ、停止した。

 お父さんも慌ててブレーキを踏んだ。

 すんでのところでなんとか衝突せずに止まることができた。

 ちゃんとシートベルトをしていなかったレイアさんが、運転席と助手席の間に挟まってしまっていた。


 止まった前の車から男の人が二人降りてきた。一体どうしたのだろう。

 すごく慌てた様子でこちらに駆け寄って来て、窓ガラスを叩いた。


「すみません!助けてください」

「どうしました?」


 私は思わず、窓ガラスを開けてしまった。

 その途端、男の一人が隠し持っていた何かのスプレーを車内に噴射した。


「ちょっと、ゲホ、ゲホ」

「なんだ、一体!ゴホゴホ」

「襲撃です。逃げてゴホン、ゴホン」


 催涙スプレーだろうか、目も痛くて開けられない。

 苦しんでいると、ドアを開けられ、シートベルトを外されて、車の外に引きずり出されてしまった。

 そして、二人がかりで抱え上げられると、多分、前の車に押し込められた。


 なんて手荒な人攫いなの!ここ、日本よね。信じられない。

 私を乗せると、車は直ぐに動き出したようだ。


 レイアさんは、護衛じゃなかったの?全く役に立ってないじゃない!


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