第49話 検証実験

 星見人(ホシミスト)の称号を持っていれば、星を創造できるのか確認するため、高校の同級生のヒジリ君に協力してもらうことになった。


 検証実験を行うのに人目がない方がよいだろうと、私たちは月面に来ていた。

 もちろん、アルフの転移魔法によってである。

 まずは、私とライラ様が連れてこられて、アルフは今、ヒジリ君を迎えに行っている。


「何故ライラ様も一緒なのですか?」

「アキコから目を離さないと言っておいたはずよ」


 まだ、監視は解けないようである。

 ただ、監視の目的が当初からは、変わっているような気がするが。

 私は、ライラ様といがみ合う。


 そんなことをしているうちに、アルフがヒジリ君を連れて戻ってきた。


「んんん!」


 やって来たヒジリ君は手で口と鼻を押さえて何か言っている。


「どうしたの?」

「プハー。本当に空気がある?!」


 ああ、そういうことね。普通なら月面上に空気はないものね。


「井戸川さん!これはどういうこと?!」

「この世界は、基本的にどこにも空気があるらしいよ」


「それって、宇宙空間じゃないんじゃないの?」

「多分、そういうことだと思うよ」


「・・・」


 ヒジリ君にとっても、常識を覆す、ショックなことだったのであろう。

 暫し、黙り込んでしまった。


「ところで、本当にここは月面なのか?騙されてる気がするんだが___」


 あ、復活した。

 復活はしたが、現状を受け入れてはいないようだ。


「それは、本当の月ではなく、私が想像で創造した月だからよ」


「本物のコピーでなく、想像の産物ということか・・・。だから色々変なんだな」

「変とは失礼ね」


「だって変だろ。重力とか、あそこから先で石が光ってたりとか」

「うん、まあ、それはね___。仕方がないじゃない。元々、創造する気はなかったんだから」


 まあ、創造する気でやっても、これ以上の物ができるかわからないけど。


「さて、余り時間もないし、さっさと検証に移ろうか」


 アルフの言う通り、夜中に病院を抜け出してきているのだ、手早く済ませよう。


「それじゃあ、私が見本を見せるわね」


 私は、前回もやった流星を作ってみせることした。


「頭の中で流星を想像して・・・」


 目の前に小石が現れると燃えながら足元に落ちた。


「ざっと、こんな感じよ!」


 私はドヤ顔で胸を張った。


「こんな感じと言われても、全然わからんのだが」

「習うより、慣れろよ。さあ、やってみて」


「アキコには先生は向かないようね」

「そうだな」


 アルフとライラ様が失礼なことを言っている。

 それより、二人の距離が近いのが気になる。


「そこの二人、イチャイチャしなでよね!」

「そんなことは、してないわよ。これが、アルフ様と私の普通の距離感よ」


 そう言って、ライラ様はアルフとの距離をもっと詰める。

 ちょっと、それ以上近づかないでよ!

 だが、アルフは全く気にしていないようだ。


「まあ、ヒジリ君、アキコのアドバイスは期待しないで、とりあえずやってみてくれ」

「わかりました。井戸川さんは当てにしないで、頑張ってみます」


「なによ!二人とも失礼ね」


 その後、ヒジリ君は一生懸命流星を作り出そうとしていたが、なかなかうまくいかない。

 私も、何度か手本を見せたが、頭の中で想像する、以外のアドバイスはできないでいた。


「なんで俺にはできないのだろう?」

「ちゃんと頭の中で想像できてる?」


「こんな月を創り出す人よりは、ちゃんと想像してるよ」

「失礼な人ね。ケンカ売ってるの?」


「ケンカを売ってる気はないけど。少なくとも、井戸川さんよりは詳細に想像していると思うけどな」

「なら、きっと愛が足りないのよ。星に対する愛が!」


「愛ね・・・。井戸川さんは、星に対する愛より、特定の誰かに対する愛の方が強いように見えるけど___」

「そ、そんなことないわよ。ハハハハハ」


 ヒジリ君にアルフのことをイジラレて、笑って誤魔化すしか出来なかった。


 しかし、私はなにも考えずにできたのに、なんでヒジリ君にはできないのだろう。

 こうなると、星を創造できるのは、星見人(ホシミスト)の称号とは関係ないのではないだろうか。


 私がそう考え始めたころ、アルフもそう考えていたようだった。


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