第43話 僧侶と看護師

 謎の浮遊大陸が突然現れ、世間が大騒ぎしている中、拙僧の近所でも、ちょっと変わったことが起きていた。


 井戸川さんちの庭に、謎の扉が設置されたのだ。

 高さが三メートル近くある、立派な扉だ。


 それが、庭の隅に、ただ立てられていた。


 何かのオブジェだろうか?

 井戸川さんの家族に芸術家がいる話は聞いたことがないが、誰かが芸術に目覚めたのだろうか?

 普段なら、近所に話題に登ったであろうが、世間はそれどころではない。

 目立とうとして設置したなら、あいにくであった。


 それでも、拙僧は、それが気になって仕方がなく、それから、こまめに井戸川さんちの庭をチェックしていた。


 すると、どうだろう。

 見かけない外国人が何名か、コスプレをして、井戸川さんちを出入りしていた。

 どこか、海外から来た芸術家か?と思ったが、拙僧は、とんでもない瞬間を目撃してしまった。


 なんと、コスプレした外国人たちは、ただ立てられただけの扉から出入りしていたのだ。

 扉を潜って、裏側に出ているのではない。

 扉の裏側を確認したが、そこには何もなかった。

 どこか、他の場所に繋がっているとしか思えない。


 浮遊大陸が現れたのと、扉が設置されたのは同時期だ。無関係とは思えない。


 それから、拙僧は全力で井戸川さんちの調査にあたった。


 その結果、コスプレした外国人たちは、地球人ではないことがうかがい知れた。

 状況的にみて、浮遊大陸から来ているのであろう。


 そして、理由はわからないが、井戸川さんちの高校生の娘が、浮遊大陸が現れた翌日から病院に入院していることもわかった。


 あいつらに何かされたのか、その娘が、浮遊大陸が現れたのと関係しているのか、わからないが、そちらも調べる必要があるだろう。


 幸い、その娘が入院している病院には、敬虔な信者の看護師が勤めている。

 その者に探らせるとしよう。


 ===============


 私が入信しているお寺から、勤め先の病院に入院している女子高生を監視して探るようにお願いがありました。


 今までも、何度かそんなお願いを受けたことがあります。

 悪徳政治家や企業の社長だったり、虐待されている子供だったり、DVに苦しむ奥さんだったり、その対象はいろいろでした。


 今回は、女子高生ということを聞かされているだけで、具体的なことは何も聞かされていません。

 状況からして、いじめか何かでしょうか?


 しかし、何かを探り出そうにも本人は寝たままです。

 わかるのは、お見舞いに来るのが、両親と妹、それに、外国人の女性ということだけです。

 彼女が寝たまま、目を覚さない原因も、寝たままになったきっかけも、まるでわかりません。


 強いていえば、お見舞いに来る外国人の女性が大変怪しいです。

 日本語はすごく上手なのですが、日本のことをまるで知りません。

 というか、外国人だとしても、知っているだろ、一般常識が通じないことが多いです。


 どんな田舎で暮らしていたのでしょう?それとも、超箱入り娘だったのでしょうか?


 女子高生が入院して、十日目、ついに彼女が目を覚ましました。


 しかし、彼女は浮遊大陸が現れる直前からの記憶がなく、目が覚めなかった原因もわかりませんでした。

 十日間寝たきりだった割には、体にまるで異常がなく、すぐにでも退院できたのですが、記憶がないことから、様子をみて、しばらく入院は続けることになりました。


 このまま、何もわからないままでは、お寺から叱られてしまうところでしたから、そのまま退院されなくて幸いでした。


 ということで、何としてでも何らかの成果を出すために、私は彼女の監視を強化しました。

 だというのに、その日の夕食後、彼女が病院の屋上に出ると、そこで、彼女の姿を見失ってしまいました。


 屋上から飛び降りたわけでもないのに、屋上のどこを探しても見つかりません。


 途方に暮れていると、外国人の女性がやって来ました。

 彼女も女子高生を探している様子です。


 私は、見つからない様に彼女をつけることにしました。

 ですが、結局、彼女は女子高生を見つけることができずに、病室で待っているところに、女子高生が帰ってきました。


 女子高生は、最初はとぼけていましたが、彼女に問い詰められると、切り抜けられないと諦めて、全てを打ち明けていました。


 それによると、記憶が無いというには演技の様です。


 話の内容は、転移や創造といった、とても信じられない内容でした。


 これは、お寺に十分な成果を示すことができる様です。


 ===============


 調査にあたらせていた看護師から報告があった。


 転移?創造?異世界人?


 これは本当のことだろうか?


 普通なら、彼女の働き過ぎを疑うところだ。

 だが、不思議な扉を見ている拙僧には、それがただの妄想には思えなかった。


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