第41話 魔法

 一通り試食も済んだので、大幅にそれてしまった話を元に戻す。


「魔法だったか?」

「そう、何か簡単なものでいいから見せてくれない?」


 私は、アルフに、魔法をヒジリ君へ見せてくれるように頼んだ。


「それじゃあ、得意な空間魔法を一つ___』


 そう言うと、アルフは一枚のコインを取り出した。


「取りい出しましたこのコイン、タネも仕掛けもありません。よく見ていてくださいよ。このコインを右手に持って___。ハイ!ご覧の通り、一瞬で左手に移りました」


「・・・手品だね」

「そうね。手品にしか見えなかったわね」


 確かに、コインは目の前で、右手から左手に移ったのだが、アルフの演出によって、手品にしか見えない。


「えー。今のじゃ駄目なのか?子供たちにすごくウケるのに___」


 それは、魔法が使えない子供には、大ウケだろう。


「それじゃあ、このコップを、手を使わずに浮かせよう。ハアッ!」


 アルフの両手の間で、コップが宙に浮いている。

 手品だとすればすごいのだが、魔法に見えるかというと、先程のこともあり、正直、微妙な感じだ。


「凄いでしょ。ほら、別に糸で釣っているわけではないのよ!」


 ご丁寧に、ライラ様がコップの周りに手をかざし、仕掛けがないことをアピールする。


 お陰で、余計に胡散臭さが増した。


「・・・」


 それは、ヒジリ君も同じに感じたようだ。


「これも駄目なのか?そうだな。それじゃあ、スプーン曲げなんかどうだろう?」

「あー。それも胡散臭いからやめて」


「井戸川、この人たち、実はマジシャンなのか?」

「いや、本当に魔法が使えるから___」


 段々、私も自信がなくなってきた。


「それなら、ヒジリ君、手を出して」


 ヒジリ君が、アルフに言われるまま手を出した。

 アルフは、テーブル越しに腕を伸ばして、その手を取る。


 男同士が、テーブル越しに手を取り合っているのは、誰得なのだ?

 あいにく、私にはその手の趣味はない。

 不由美は、その手のマンガを読んでいるようだから、喜ぶだろうか?


「転移!」


 そんなことを考えているうちに、目の前から二人の姿が消えた。


 ちょっと、こんな目立つところで!

 心配して、周りを見回すが、幸いレストラン内には客が少なく、ここは他の客から死角になっている。

 そのため、誰も気づいていないようだ。


 よかった、こんなところで大騒ぎになったら大変である。


「あの?こちらのお客様はどちらに?」


 安心したのも束の間、私の後ろ方向から来たウェイトレスさんに声をかけられた。


「えーと。ちょっと席を外して外へ___」

「そうですか?こちら、ご注文のドリアになります」


 ウェイトレスさんは、ドリアをテーブルに置くと、首を捻りながら戻っていった。


 すれ違いに、二人が外から戻って来た。


「ちょっと、他の人に気付かれたらどうするつもりよ」

「そんなに他人のことなんて気にしてないさ。それに、浮遊大陸が突然現れるより、大したことじゃないだろう」


「それはそうかもしれないけど・・・」

「それより、ヒジリ君もわかってくれたようだよ」


 アルフの隣にいるヒジリ君は、目を輝かせて大きく頷いた。


「いやー。ビックリだよ!魔法ってあったんだな」

「ちょっと、ヒジリ君、声が大きいって!」


 幸いレストラン内に、お客はほとんどいないが、さっき、ウェイトレスに不審に思われたばかりだ。

 私は、改めて周りを見回す。


「アルフ様、注文した物が届いてますよ。冷めないうちに召し上がった方がよろしいですよ」

「お、そうか。それではいただくとしよう」


 アルフは夢中でドリアを食べ始めた。

 全く、これでは、いつまで経っても話が進まない。


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