第40話 あーん

 私たちはヒジリ君に地球が異世界に召喚されたことと、魔法がある世界であることを伝えた。


「全員が使えるわけではなく、一部の人が使えるだけみたいだけどね」

「二人は使えるのかい?使えるなら見せてもらいたいものなんだが」


 そうだね、信じてもらうにはそれが早いだろう。


「二人とも使えるよね。何か見せてあげて・・・。ちょっと聞いてる?」


 アルフとライラ様の二人は、話の途中に持ってこられたチョコパフェに興味深々で、こちらの話を聞いていないようだ。


「アルフ様も興味あります」

「そうだな」


「では、一口どうぞ。あーん!」

「悪いな。パク。うむ。すごく甘いのだな」


 ライラ様がアルフに、あーんを始めた。


「おい、あの二人、カップルじゃないと言ってなかったか?」

「・・・」


 ヒジリ君が聞いてくるが、今はそれどころではない!


「もう一口いかがですか?」

「いや、味はわかった、もう結構」


 そうですよね。ただの味見ですよね。

 ライラ様は、アルフのために新たにすくった一口を、そのまま自分の口に運んだ。


「ホント、甘くておいしいわ」


 ライラ様が、ちらちらとこちらを見てドヤ顔だ。


「じゃあ、今度は私のをどうぞ。はい、あーん」

「いいのか?悪いな」


 私は、丁度来たモンブランをフォークで適当な大きさに切って、アルフに食べさせる。


「うむ。こちらの方がまだ甘くないが・・・」

「もっと食べますか?」


「いや、もういいよ」

「そうですか」


 今度は私がそのフォークでモンブランを食べ、ライラ様を見返してやった。


 そこに、ヒジリ君が注文したチーズケーキが来た。

 アルフの視線は、そのチーズケーキに釘付けである。


「あの、俺の分も試食しますか?」

「いいのかい?悪いな。あーん」


「え?あ、あーん」

「ちょっと!誰得よ!」


 私は、ヒジリ君のフォークを奪い取ると、私がそれをアルフに食べさせようとする。


「はい、あーん」

「私にも頂戴!」


 隣からライラ様が顔を出し、それを食べてしまった。


「おほほほほ。これも美味しいですわね!」

「ぐぬぬぬぬ!」


「あの、よかったらどうぞ___」


 ヒジリ君は、今度は皿ごとチーズケーキをアルフに渡す。


「すまないな。これは少し酸っぱくて美味しいな」


 アルフは、皿を受け取り、自分のフォークでチーズケーキを少し食べると、感想を述べて、それをヒジリ君に返した。


 ヒジリ君は、返されて皿を受け取ると、私の手元をじっと見ている。

 あ!フォークを返さないとね。

 私は、ヒジリ君にフォークを返そうとしたが、手を滑らせてそれを落としてしまう。


「あ、ごめんなさい。今、新しい物をもらうわね」

「あ、うん。気にしないで」


 何故か、ヒジリ君が残念そうにしていたが、気付かなかったことにしておいた。


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