第38話 自動販売機

 プラネタリウムを見終わった後、高校のクラスメイトに声をかけられた。

 話をしていると、アルフたちも寄って来た。


「アキコ、そちらは?」


「高校の同級生で、セ・・・、じゃなく、ヒジキ君」

「ヒジキでなく、聖と書いて、ヒジリだから!」


「もう。軽いジョークなんだから、そんなに必死で突っ込まなくても・・・」

「本当にジョーク?」


 疑わしそうな目で、ヒジリ君は私を見ている。

 いや、今回のはマジで冗談だから。


「それで、ヒジリ君、もし良ければ僕たちとお茶でもどうかな?」

「お茶ですか?」


 アルフがヒジリ君をお茶に誘う。ヒジリ君が女の子ならナンパであるが、あいにく、ヒジリ君は普通の男の子だ。

 おとこの娘でもないから、悪しからず。


「実は日本にくるのは初めてでね。日本のことをいろいろ教えてもらいたいんだ」

「あ、やっぱり外国の方なんですね。それにしては日本語がお上手ですね」


 そりゃあ、翻訳魔法を使ってるからね。


「そうかい。それでどうだろう?あ、僕はアルフレット、アルフと呼んでくれ」

「私はライラよ。ヒジリ君の行きつけの店があるならそこでもいいわよ」


「行きつけの店と言われれても、俺なんかが行くのは、ハンバーガーショップか、せいぜいファミレスくらいですよ」

「ファミレス?」


「家族向けのレストランのことよ」


 ライラ様が疑問に思っているので教えてあげた。

 アルフの国にはファミレスがないのか、それとも、ライラ様が知らないだけなのか。

 ライラ様は、お姫様ですからね、有ったとしても行ったことはないでしょう。


「ファミリーレストランということね。私、そこに行ってみたいわ。ヒジリ君、案内してくれる?」

「あ、はい。わかりました。こっちです」


 あ、ヒジリ君ライラ様に頼まれて、顔を赤くしてるわ。

 初々しいわね。

 もっとも、ライラ様は美少女だから、無理もないか。


 ヒジリ君とライラ様が先に行ってしまったので、その後を私とアルフが並んで追う。

 前の二人と、少し距離があるので、気になっていることをアルフに聞いてみよう。


「アルフ、これは、どういうこと?星見人(ホシミスト)は捜さなくていいの?」

「それを見つけたから、彼を誘ったんじゃないか」


「え、彼がそうなの?同じクラスなのに知らなかったわ」

「それは、灯台下暗し、それとも、幸せの青い鳥かな」


「とてもヒジリ君が、青い鳥には見えないわね」


 私にとっての青い鳥がアルフならいいのに___。


「そうだ、そんなことより、ファミレス行くのはいいけど、私、お金が残り少ないわよ」

「それなら大丈夫、僕もお金なら持ってるから」


「お金といっても、日本円じゃないと使えないわよ」

「ちゃんと、日本のお金だよ、ほら」


「どうしたの、そのお金?どこからか、盗んできたんじゃないでしょうね?」

「失敬だね。僕がそんなことするわけないじゃないか。きちんと、日本で稼いだお金だよ」


「日本で仕事をしたの?」

「そうだよ。ウー何とかで、配達したんだ。仕事が早いって、好評価だったよ」


「そりゃあ、転移魔法を使えば早いでしょうよ。でも、短期間にそんなに稼げるものなの?」

「まあ、二、三十箇所掛け持ちすれば、これくらい、軽い、軽い」


「掛け持ちって・・・。___チート野郎が」

「何か言ったかな?」


「いえ、何も___。でも、それならさっきも払ってくれてもよかったのにー」

「あれ、さっきお金を払ったのか?あの、チケットのような物もお金だったのか?」


「アルフが係員に渡した物はチケットよ。でも、それを私が買って渡したでしょ」

「チケットを買ってる様子はなかったが?」


「えー?目の前で券売機で買ってたじゃない!」

「機械でチケットが買えるのか?!」


「もしかして、券売機とか自動販売機が無いの?」

「自動販売機とは何だ?」


「そこにあるわよ。お金を入れると選んだ物が出てくるの」

「人手を使わないのか?それはすごいな。値段交渉はどうやるんだ?」


「値段は決められた価格から値引きはできないわ」

「それでは貧しい人が困るだろう。ああ、裕福な人しか使わないのだな」


「誰でも使うわよ!」


 あれ、でも、節約する人は、自動販売機で買わないで、安売り店で買うのかしら?

 だとすると、アルフの言っている通りね。

 それより、アルフの国では値段交渉が普通のことなのかしら?


「アルフの国では、同じ物でも、裕福な人と、貧しい人では、値段が違うの?」

「支払い能力が違うのだから、当たり前だろ?」


「そうなの、当たり前なのね・・・」


 どうやら、アルフの国には、定価というものがないらしい。

 買い物、めんどくさそうだな___。


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