第31話 屋上

 病院で目覚めたのは昼前だったが、昼過ぎには普段と変わらず、歩き回ることができていた。

 病院内なら、ということで、散歩をする許可も下りたので、消灯前に病院の屋上に上がってみた。


 夜空を見上げたところで、星空は見られないが、そろそろ、私が創造した月が昇ってくるかもしれない。あれから十日経っているとすれば、今は、満月を過ぎたあたりだ。

 ただ、太陽がないのだから、光ってはいないだろう。


 そう予測して屋上に出たのだが・・・。


「えー!何でー?!」


 屋上に出ると、浮遊大陸の脇の南西の夜空に、月齢六日の上弦少し手前の月が輝いていた。そう、輝いていたのだ!


 突っ込みどころ満載である。


「もしかして、あの月、ずっとあそこにあるの?」

「そうだね。昼も夜も、できてからずっとあそこにあるね」


 独り言に答えを返され、びっくりして、振り返るとそこにはアルフが立っていた。


「びっくりさせないで」

「ごめん、ごめん。それで、創造物を見た感想は?」


「ディテールはよくできてるけど、静止しているところはいただけないわね」

「あれは、勝手に動くものだったのか?」


「勝手に、というか、決められた場所を回っていたのよ」

「それは、人が操っていたのか?」


「違うわ。自然現象よ。重力の影響で、地球の周りをぐるぐるっと・・・。重力なかったんだっけ?」

「そうだな。その言葉はなかったな」


 召喚された地球には重力はあるわよね。

 でなければ、王様が言ったように、反対側にいる人は落っこちて、大騒ぎになってるはず。


 じゃあ、私が創造した月はどうかしら?

 見た目そっくりにできてるけど、太陽もないのに光っているのだから、本物ではない。

 つまり、地球と同じように召喚されたものではないことは確かだ。


 その場合でも、重力はある?ない?


 確認するには行ってみるのが一番簡単そうだけど・・・。


「アルフ、あの月に行けないかな?」

「いいぞ。今行くか?」


「ちょっと待って、宇宙服がないわ!」

「宇宙服?なんだそれ?」


「真空の宇宙で活動するための服よ」

「そういえば、地球は真空結界を張っているな。これだと簡単には飛んで来れないと思ったら、専用の服があったんだな」


「真空結界?」

「あれ、違うのか?他にも、電離結界や磁場結界、オゾン結界なんかも張ってるよな?」


「結界ではないんだけど・・・。いや、結界でいいのか?」

「とにかく、あそこには真空結界は張ってないし、宇宙服がなくても問題ないぞ」


「つまり、あの月の周りには空気があるということでいいのね」

「そうだな」


 アルフの話から判断すると、この世界が空気に満たされていて、真空状態ではないようだ。

 重力がなく、星が、自転や公転をしている世界でなければ、真空でなくても困ることはないな。

 月の周りに空気があることは好都合だ。


「それじゃあ、あの、光っている所と、暗いところの逆目付近にお願い」


 私はアルフの腕を掴んだ。


「わかった。転移!」


 私たちは、病院の屋上から、月の上に転移したのだった。


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明日からの更新は、一日一回、夜のみ(午後7時~午後8時)の予定です。


引き続き、よろしくお願いいたします。


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