第30話 病室

 目を覚ましたのは病室のようだ。


 確か、アルフと一緒に飛行船で、ランデブーしていたはずなのに?ちなみに、ドッキングまでは至らなかったはずだ。


 状況が掴めず、ぼーっとしていると、アルフが突然転移で現れた。

 このタイミングで現れたということは、また覗き見していたな!


「よかった。目を覚ましたのだな」

「また、覗き見してたでしょ?」


「監視だ、監視!」

「まったく、乙女の寝姿を覗かないでよね!」


 私は、アルフから視線を外して横を向きながら文句を言った。


「それはそうと、なぜ私は病室にいるの?」


「アキコは十日間寝たままだった」

「十日間?!」


「ここは地球の病院だ。詳しい話は後で教えてやるから、何か聞かれても、地球が召喚されてからのことは、記憶がないふりをしてなにも喋るな」

「何か尋問されるような事態なの?」


「・・・そうだな、教えておいた方がいいか。月の創造は成功していた」

「そりゃあ、想像くらいできるでしょ・・・。創造できたの?」


「そうだ。そのせいで十日間目を覚さなかった。だから、これ以上創造はするな」

「そんなこと言われても・・・」


 ちょっと待って、想像しただけで、創造できるなんてまるで神じゃない。

 でも、そのせいで、十日間目を覚さなかったとすると、迂闊に使える力じゃないわ。

 それに、問題なのはその使い方がわからないこと。

 裏を返せば、いつ、また創造してしまうかわからない。

 その度に眠りこけてしまうのは、まずいし、次も十日で済むかわからない。


 仮に、創造した星の大きさによって寝ている時間が決まるとすると、太陽の直径は月の約四百倍。

 十日の四百倍は、四千日、つまり十年以上。

 それが、直径でなく、体積だとすると、六万四千倍・・・。

 考えるのをやめよう。


 次第に青く変わっていく私の顔色を見て、アルフが慌てた。


「大丈夫だ!鮮明に思い浮かべて、魔力を込めなければ大丈夫だ!___多分」

「魔力って言われても・・・」


 魔力と言われても、魔法なんて使えないし、魔力を感じたこともない。


「誰か来たようだから僕は消えるぞ」

「あっ___」


 呼び止めようとしたが、アルフは消え、代わりに看護師が病室に入って来た。


「井戸川さん!目を覚ましたのですね!」

「はい。ここはどこでしょう?」


「病院ですよ。心配しないでね。今、先生を呼んできますから」


 看護師は慌てて病室を出て行った。


 その後、お医者さんが来て診察されたが、特に体に異常はないようだ。

 寝る前のことを聞かれたが、アルフに言われた通り、覚えていないと答えておいた。

 そのせいか、他に何かあるのか、二、三日このまま入院するように言われた。


 お医者さんの診察が終わると、妹の不由美とライラ様が入って来た。

 レムリアのライラ様がここにいて大丈夫なのかと心配になったが、アルフから記憶がないふりをする様に言われていたので、初対面の対応を取った。

 ライラ様はショックを受けていたようだが、アルフから言われているので、ごめんなさい。


 不由美とライラ様が今までに起きたことを説明してくれた。


 地球が召喚されてから一日目の話は、私の記憶と同じだ、ただ、私が夜、アルフと出かけていたのは知られていないようだ。

 その夜、月が現れたのだが、レムリアからは地平線より下の死角になるため、発見されたのは、翌朝になってからだった。


 私が目覚めないのに気づいたのはお昼前で、すぐにレムリアで診察されたが、原因は魔力の欠乏。十日は目覚めないと診断された。


 そこから、私の両親と王宮とで駆け引きがあったようだが、結局、ライラ様をつけることで、こちらの病院に入院させることで話がついた。


 現在の地球の様子だが、召喚されて、一週間経ったところで、時刻が変更になった。

 日本時間では、ほぼ十二時間ずれていたので、十二時間戻す対応が取られた。


 それに伴って、今は、通常通りの生活が行われている。

 完全に元通りかというと、そうもいかない。


 例えば、国や地域による時差はなくなった。これはメリットかもしれない。

 問題なのが、天気予報があてにならなくなった。

 加えて、今後、地域間の温度差がなくなることが予測され、四季もなくなり、農業への影響は計り知れない。

 南極の氷が溶けることになれば、海面水位が上がることになるだろう。


 だが、ライラ様によると、そういった問題は魔法でどうにかできるかもしれないそうだ。

 星を作ろうと考えていただけあって、テラフォーミングの技術は進んでいるようだ。


 そうなると、困るのは、天文台の職員と星見人(ホシミスト)だけだろうか・・・。


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