第23話 アルフの生い立ち
目が慣れて、窓から覗くと、隠れ家から見たのと同じように岩の塊が見える。
夜といっても、真っ暗ではない。月夜と同じ程度には明るいようだ。
「もしかして、あそこにぶら下がって見えるのが隠れ家?」
「そうだよ」
ということは、ここは大陸の底か。
飛行船が少し進むと、大陸全体が確認できるようになる。
横から見るのは初めだが、球形ではなく、多少凸凹があるが、薄べったい円盤だ。例えるなら、ビザのような感じだ。
しかし、本当に夜だというのに星一つ見えない。
まったく面白みのない夜空だ。
「すまなかったな。食事の席では___」
私が夜空を見て不満そうにしていたからだろうか、アルフが唐突に私に謝罪した。
「こちらこそ、何かまずいことを言ったようですみませんでした」
「いや、アキコが謝る必要はない。僕が未熟だっただけだ」
謝るために、わざわざ連れ出してくれたのだろうか?
席を立った理由を聞いてもいいのかな?
「実はな、僕の母親は魔王の妃だったんだ」
私が聞く前にアルフは自分から喋り出した。
だった、ということは、今は違うのだろうか?
「母は浮気をしていたんだ。それも、敵国の国王と」
「それって王様のこと?」
「そう、スクレムリア国王陛下だ」
好色王だと思っていたが、そこまで節操なしだったか!
下がっていた国王の評価が、ストップ安の駄々下がりだ。
「母は必死に隠していたようだが、僕が十二歳の時に浮気がバレた。僕が、魔王にまったく似ていなかったからだ」
それって、アルフの本当の父親は王様だったっていうこと?
「浮気がバレた時、魔王は母を斬り殺した。僕も殺されそうになったけど、転移で逃げて無事だった」
ちょっと、なんと言ったらいいのだろう。なんとも凄絶だ。
重いよ。重すぎるよ。気軽に聞いていい話じゃなかったよ___。
アルフにとっては、浮気をしていた母親も、浮気相手の本当の親である王様も、母親を殺した育ての親である魔王も、誰も簡単には許せないだろう。
それを知っていたら、王様の代わりに、アルフが魔王と交渉しろ、とは、普通言えないよな。
「ごめんなさい___」
「いや、こっちこそ話が湿っぽくなったな」
だけど、なんで私にここまでの話をしてくれたのだろう?
「それでも、アキコに言われて、いつまでも避けていては駄目な気がしたんだ。自分の主張は自分で言わないと」
私の一言で前向きになれたということだろうか?それなら、それで良かったが___。
「それで、手始めに、アキコの慰謝料を取り立てに行こうと思う」
「慰謝料?」
「攫われた時の精神的苦痛に対する慰謝料だよ」
実行犯は捕まったが、命令した魔王を捕まえるのは無理だろう。なら、せめて、慰謝料を取ろうというわけか。
「そんなの、いいのに___」
「いや、ここはキッチリ取り立てておかないと、後に響くからね。アキコにもつきあってもらうよ」
「もしかして、今から魔王に会いに行くの?」
「そうだよ。魔王の住む、アトランティス大陸の魔王城にレッツゴーだ!」
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