第18話 不由美

 何かよくわんないけど、とんでもないことになっちゃった。

 突然昼間になったり、空に大陸が浮いてたり、あり得ないよね。


 そんなわけで、旅行の予定を途中でキャンセルして、あたしたちは家に帰ってきました。


 一人留守番しているお姉ちゃんは、きっと心細かったよね。

 あたしもお姉ちゃんの無事な姿を見て早く安心したい。


「お姉ちゃん、ただいま!」


 テレビの音が聞こえたので、玄関から入って、そのまま居間に直行しちゃう。

 居間に入ってビックリ!

 テレビを見ていたのは、お姉ちゃんでなく、金髪の王子様でした。


「どちら様ですか?」

「ああ、外で待つのも大変なので、勝手に上がらせてもらったよ」


「勝って上がらせてもらったって・・・。お姉ちゃんはどこ?」

「アキコさんなら王宮だよ」


 王宮?今、王宮って言った?!もしかしてリアル王子様?!


「あの、もしかして王子様ですか?」

「ああ、名乗ってなかったね。レムリア王国王子のサガト・ライト・スクレムリアだ。気軽にサガトと呼んでくれ」


 自己紹介しながら金髪をかき上げる姿がキラキラしてるー。キャー!!本物王子様だ。


「えっと、サガト様、あたしは井戸川不由美。中学一年です。不由美って呼んでください」

「フユミちゃんだね。お父さんとお母さんは一緒じゃないのかな?」


「お父さんたちなら今来ます。それより、ちゃん付けなんて子供じゃないんだからやめてください」

「そうか、それは失礼した。ではフユミさんだな」


「それでもいいですけど、どうせなら呼び捨てで!」

「呼び捨てか?フユミ。これでいいか?」


「キャー!フユミって呼んでもらっちゃった!」

「不由美、なにを騒いでいるの?あら?どなた?」


「お母さん!見て!本物の王子様よ。サガト様っていうの!」

「不由美、落ち着きなさい。失礼しました。不由美の母の波瑠江です。それで、サガト様はなぜここに?」


「うむ、それについて説明せねばならないのだが、ご主人も一緒の方がいいだろうな」

「あら、そうね。二度手間になるものね。不由美、お父さん呼んできて、まだ外にいると思うの」

「はーい」


 あたしは、玄関から外に出て、お父さんを呼びます。


「お父さん!お母さんが呼んでる。王子様が話があるって!」

「王子様?何言ってんだ?それより不由美、これ、なんだと思う?」


 お父さんが見ている庭の隅には、大きな扉がありました。


「随分と立派な扉だね」

「やっぱり扉だよな。誰が置いていったんだろう?」


「そんなことより、お母さんが呼んでる!」

「そんなことって・・・。疑問に思わないのか?」


「空に大陸が浮いてるより、普通でしょ?」

「それもそうか?」


「そんなことより、居間に王子様がいたの!本物よ!」

「王子様?まさか、亜希子が男を連れ込んでいたのか?!亜希子ーーー!」


 お父さんは、お姉ちゃんの名前を叫んで、家の中に駆け込んでいきました。


 あたしは、ゆっくり歩いて戻ります。

 居間に着くと、お父さんは兵士に取り押さえられていました。

 お父さん、あたしの王子様になにをしようとしたの?


 王子様がキラキラしていて気づきませんでしたが、護衛の兵士も一緒にいたんですね。


 お父さんは、おとなしくすると約束して、兵士の拘束を解いてもらい、お母さんの隣に座りました。


「それでは説明させてもらうが、まず最初に、我々は地球の人々に危害を加えるつもりはありません」

「なら、亜希子をどこにやった?!」


「アキコさんは自分で王宮にいらっしゃったので、歓待させていただいています」

「亜希子が自分で王宮に行った?あり得ないだろ」


「ちなみに、王宮というのは、空に見えるレムリア大陸にあります」

「お前たち、空の上の大陸から来たのか?」


「そうです」

「なら、なおさら、亜希子が自分で行くことはあり得ないだろう」


「それが、そうでもないんです。我々がどうやってここに来たと思います?」

「それは当然、飛行機に乗って・・・。いや、ロケットか?」


「どちらでもありませんよ。我々はゲートを使ってここに来ました」

「ゲート?」


「庭にあった扉のことです」

「あれが飛ぶのか?」


「飛びませんよ。ゲートは離れた場所を繋いでくれ、扉を潜れば、瞬時に移動できるんです」

「???」

「どこでも扉?」


 お父さんには分かんないみたいなので、あたしが口を挟んじゃいます。


「どこでもは、いけません。扉が置かれた二箇所だけです」

「つまり、うちの庭と空の上の王宮が扉で繋がっているのね?」


 お母さんは自分で言っておいて、よく分かってないようで、首を傾げています。


「まあ、話だけでは理解できないですよね。論より証拠。皆さんを王宮に招待しますから、ゲートを使って行ってみましょう」


 どうやら、あたしたちは王宮に招待されることになったようです。


 もしかしたら、このまま王子様に見染められちゃって、王宮に迎え入れられちゃうかもしれませんよね。

 これは、おめかしして、いかなきゃいけませんよね。


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