第17話 隠れ家
私はアルフと一緒に彼の隠れ家に転移した。
男の人の部屋に招かれるのはこれが初めてだ。
別に、何かあるわけではないが、この際だから、アルフレットさんをアルフと呼ぶことにした。
アルフレットさんだと長いしね。うんうん。
私がアルフと呼び捨てにするのだから、私のこともアキコと呼んでもらうことにしよう。
「ここがアルフの隠れ家なの?男の人の家なんて初めて。わー、なにこれ、このモニターの数?ゲーム?」
「ああ、これ?これは、あちこち監視してるんだ。ほら、これが王宮。ここに映ってるのがゲートの扉が置いてある謁見の間だね」
「本当だー。って、覗き?覗きが趣味なの?」
「覗きだなんて人聞きが悪い。あくまで監視だよ。監視!」
「監視ねぇー」
私は、胡乱な目でアルフを見ると、アルフはサッと目を逸らす。
本当に監視か?
「そういえば、私を助けに来てくれたのも、ここで監視していたからなの?」
「そうだよ。まさかアキコがゲートを使うとは思っていなかったから、こちらに来てからは、念のため監視させてもらっていたよ」
「ふーん。でも、それならもっと早く助けに来れたんじゃないの?」
「まあ、確かにね。だけど、誰が攫ったか調べておかないと、また攫われることになりかねないだろ」
「それもそうか___。ところで、私の着替えとか覗いてないでしょうね?」
「い、いや。着替えているところなんて見てないよ___」
なぜかアルフの目が泳いでいる。
「ふーん。まあいいや」
私はそれを指摘はせず、だけど「信じたわけでは、ありませんよ」という雰囲気を醸し出しながら、部屋の中を見て回る。
モニターがたくさんあった以外は、たいした物は置いてない。
物が少ないせいか綺麗に片付いていた。
部屋には、大きくはないが窓があったので、覗いてみる。
「ねえ、ここってどのあたりなの?」
窓からは赤く染まった夕焼け空が見えるだけで、他に何も見えない。
「大陸の底だね」
「大陸の底?地中なの?」
「違う、違う。頭を出して上を見てご覧、大陸の底が見えるから。そこから吊り下げられているんだ」
私は、言われた通り、窓からは顔を出すと、上の方を確認した。
「あの、岩の塊が、大陸の底なの?ということは、この下はどうなっているの?」
「下には、何もないよ」
今度は下を覗き込む。
本当に、ただ夕焼け空があるだけだった。
地球からは、大陸が上から見えていた。
ここが大陸の底だというなら、地球があるのは反対側だ。見えるわけがない。
でも、おかしい、私は今、床に足をつけて、重力を感じている。大陸から見て、下方向にだ。大陸方向にではない。
それなら何に引っ張られているのだろうか。
そう、考え出すと変なことばかりだ。この大陸はなぜ浮いている。
「ねえ、ここから飛び出したどうなるの?」
「窓からか?それは下に落ちるだろうな」
「下って何もない方よね?」
「当たり前だろ?」
「なんで何もない下に落ちるの?」
「物理の問題か?物には沈力があるからだろう」
「沈力?重力じゃないの?」
「重力というのは聞いたことがないが?」
「じゃあ、引力は?」
「それもないが?」
「重力や引力は、簡単に言うと、物と物が引っ張り合う力のことよ」
「それだと沈力とは違うか?沈力は、物が下向きに行こうとする力だ」
「それなら、この大陸はなぜ浮いているの?」
「それは、大陸の浮力と沈力が釣り合っているからだな」
成る程、どんなに大きくて重くても、浮力の方が大きければ、浮いていられるわよね。
大陸の中が空洞で、軽い気体が入っていれば浮力で浮いていられる・・・。わけないじゃん!
周りが水ならまだしも、周りは空気よ。
そんなに大きな浮力が得られるはずがない。
そうなると、浮力の定義がこの世界では違うのかもしれない。
「浮力ってなに?」
「浮力は物が上向きに行こうとする力だな。魔法でそのバランスを崩してやれば、宙に浮くこともできるぞ」
と言って、目の前で浮き上がるアルフ。
うん、魔法ね___。なんでもありだね。
真剣に理屈を考えるのが馬鹿馬鹿しくなってきた。
「あれ?誰か扉から入って来たぞ」
「え?」
アルフに言われ、思考を遮り、モニターを確認すると、そこには私の家族が映し出されていた。
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