第7話 扉の向こう側

「そこを空けよ」


 声を受けて、私を取り囲んでいた兵士が横に退いて通路ができる。

 その先には、立派な服を着た初老の男性がいた。

 何やら、お偉いさんらしいが、聞き間違いでなければ、言葉が通じるようだ。


 お偉いさんは近付いて来て、言葉を続けた。


「よくぞ参られた、異世界の勇者よ。我は、フィリッツ・ライト・スクレムリア、ここ、レムリア王国の国王だ」


 お偉いさんは、王様だったー。


 と、いうことは、ここは王宮か何かか?

 いや、今はそれを確かめるより、重要なことがある。


「私は、勇者ではありません!」

「うむ?では聖女か?」


「聖女でもありません。ただの女子高生です。ですので、すぐに帰してください」

「ただの女子高生とな?それは___、けったいな」


 けったいな?女子高生の何が変なのだろうか?「ただの」がいけなかったか?無料の女子高生___なんかやばそうだ。

 そう考えると、王様の視線がいやらしい。身震いする。


「で、そなたは、なぜこちらに参った?」


 気を取り直して、私は、扉のこちらに来てしまった経緯を説明する。


「そうか。アルフはそなたの家の庭に扉を設置したのだな?」

「はい、突然現れて、扉を設置して消えました」


「それで、そなたの他に扉が設置されたのを知る者はいないのだな?」

「ちょうど、家族は旅行中で、他に誰もいませんでしたから」


「家族は旅行中であったか___、いつ帰られる?」

「明後日の夜には帰る予定でしたが、混乱しているので、どうなるかわかりません」


 心配して早く帰ってくるかもしれないし、混乱で、交通網が麻痺しているかもしれない。


「向こうは混乱しているのか___。そなたには、向こうのことを色々と教えてもらいたいのだが、ここで立ち話もなんだ、もう少しくつろげる所に場所を変えよう」

「できれば、すぐに帰していただきたいのですが・・・」


「まあ、まだ、昼前だ、そんなに急ぐ必要もなかろう。もちろん、昼食も用意させるから食べて行くが良い」


 そうか、向こうは夜だったが、こちらでは昼前だったのか。

 地球の話をする代わりに、こちらのことも教えてもらおう。

 魔法が有ったり、色々違うようで興味がわく。

 もちろん、こちらの食事も楽しみだ。


「それでは少しの間だけ、お邪魔させていただきます」

「そうしてくれ。孫娘に案内させよう。ライラ頼むぞ」

「かしこまりました」


 おお、リアルお姫様だ。金髪だ、金髪!


「それでは、こちらへどうぞ、お嬢様」

「あ、ハイ!」


 お嬢様って呼ばれてしまったよ!・・・でも、服がこれじゃあな___。

 私は、部屋着のスウェット上下にダウンジャケットのままだった。まさか、こんなことになるなんて___。ちゃんとおしゃれしてくればよかった。


「あの、お嬢様、よろしければ、レムリアの服も着てみますか?」

「え!いいのですか?!できれば着てみたいです!」


「そうですか。それでしたら、最初に衣裳部屋に参りましょう」

「ありがとうございます。えー、王女様?」


「わたくしのことは、ライラと呼んでください」

「あ!私は、井戸川亜希子。亜希子が名前ですから、亜希子と呼んでください。ライラ様」


「イトカワアキコ様ですね。では、アキコ様と呼ばせていただきますね」


 私はライラ様の後について広間を出て、廊下を歩く。


「ところで、アルフレットさんはいますかね?」

「アルフ様ですか?あいにく、自由な方ですので___」


 いれば、扉の場所を変更してもらおうと思ったのだが、いないのなら仕方がない。

 それにしても、自由な方って・・・。

 アルフレットさん、ライラ様が遠い目をしていましたよー。


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