第4話 大賢者

 井戸川亜希子が、受験勉強をサボって月を眺めていたころ___。


 ここはレムリア王国王宮の謁見の間。

 僕は、今日もフィリッツ・ライト・スクレムリア国王陛下に呼び出されていた。


「国王陛下、ですから何度も申し上げているでしょう。異世界からの勇者召喚なんて、そんな非人道的なことは僕にはできません!」


 再三の呼び出しに、大賢者である僕も、ついつい声が大きくなってしまう。


「召喚された勇者には、十分な報酬と、身分を与え、魔王討伐後は、快適な暮らしは保証しよう」

「例えこちらでの、地位と名誉が与えられるとしても、異世界から召喚することは、誘拐であり、拉致ですよ。

 一度召喚してしまったら、帰すことはできないのですから___。

 勇者にだって、家族や恋人がいるのです。そのことをよく考えてください」


 陛下との話し合いはどこまでいっても平行線のままだ。


「そうはいってもな、大賢者アルフよ。このままでは、魔王アトラスによってこの国は滅ぼされてしまうぞ」

「ですから、争いでなく、話し合いで平和交渉を進めるべきだと___」


「今更話し合いなどに応じるわけがないだろう!」


 僕の発言を遮るように、騎士団長の脳筋デイモスが陛下との話し合いに割って入った。


「それはやってみないとわからないでしょう。何でしたら、僕が直接魔王城に転移して、こことゲートを繋ぐこともできますよ」

「はあー。大体お主のその人並外れた能力も争いの一端なのだがな___」


 陛下が呆れたようにため息をついた。


「なぜです。僕は空間魔法は得意ですが、攻撃魔法は一切使えませんよ」


「勇者を呼び出す代わりに、お主が攻撃魔法を覚えて、魔王を撃退してくれても良いのだぞ」

「いやですよ、そんなの。僕は平和主義者なんです。攻撃魔法なんて一切覚える気はありません」


「そこをなんとかならんかのー」

「嫌です!」


「グヌヌヌヌ!アルフレット!いつも、いつも。陛下に対して無礼だぞ‼︎」


 デイモスが、堪忍袋の尾が切れたといった感じに、腰の剣を抜いて、俺に斬りかかってきた。

 振り上げられた剣が、僕に目掛けて躊躇なく振り下ろされる。


 だが、慌てる必要はない。振り下ろされた剣が僕に当たる瞬間、その剣は姿を消す。

 空間魔法で、剣をストレージに仕舞い込んだのだ。


「貴様ーーー‼︎俺の剣を返せ!」


 デイモスは剣を奪われて、今度は素手で殴りかかってくる。

 危ないので、デイモスを壁の前に転移させる。


「ガッ!」


 デイモスは、そのまま壁を殴りつけた。


 全力で殴りかかったのだろう。手を押さえて踞ってしまった。

 いつものことなんだから、少しは学習すればいいのに___。


「いくら鍛えても結果は変わらないよ」


 むしろ、怪我の具合が酷くなっているようだ。ホント脳筋なんだから___。


「デイモス、お主は下がっておれ」

「ですが!」


「良いのじゃ。お主ではアルフには敵わん」


 陛下がデイモスを下がらせる。


「アルフよ、お主なら、勇者の関係者を全員召喚することもできるだろう。それなら、召喚された勇者も納得するのではないか?」


 陛下から新しい提案がされた。


「関係者を全員ですか?可能ですが・・・」


 その発想はなかったな。

 このままでは、陛下は諦めてくれそうにないし、妥協点としては妥当なところか___。


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