第3話 扉

「納得してもらったところで、この扉をここに設置していいかな?」


 浮遊大陸から来たという、アルフレットさんは、片手で大きな扉を持ちながら尋ねてきた。

 納得したわけではないが、話に矛盾はないので、一応信じることにして話を進めることにする。


「この扉を開ければ、あの浮遊大陸に行けるわけですよね? それがないと行き来できないのですか?」

「普通に空を飛んでもいけるけど。ゲートの方が早くて便利だよね」


 空を飛ぶって? 魔法でだろうか? それともこちらと同じように、飛行機やロケットだろうか?


 大体、あの大陸、大気圏内に浮いているのだろうか? それとも宇宙空間?

 大気圏内なら飛行機でも行けるが、その場合、どうやって浮いているのか気になる。

 逆に、宇宙空間にあるなら、ロケットが必要で、簡単には行き来できない。


 宇宙空間なら、浮いている理由は簡単に説明できそうだが、実はそうでもない。

 さっきから、大陸の位置が全く変わらない。

 ということは、大陸は静止軌道にあることになる。

 静止軌道は、高度約三万六千キロメートルだ。あの大陸までそんなに遠いのか?

 比較対象がないのでよくわからないが、そこまで遠いようには思えない。


 まあ、何らかの力を使ってその場に留まっている可能性が高いか――。

 例えば魔法とか……。


 とにかく、私達が行くのは大変だろうということは理解できた。


「そうですか、でも、それならうちの庭でなく、もっと交通の便が良い所の方がよくないですか?」


 私は当然の質問をする。


「そうしたいところなんだけど、どこにでも設置できるものじゃないんだ。位置関係とか、空気中の魔力の量とか」

「結局、うちの庭でなければダメということですね?」


 最初から選択肢なんかなかったじゃないか!


「駄目という程ではないのだけれど、一番理想的な場所だね」

「なら、仕方ないですね。設置してもいいですよ」


 ちゃんと許可を取ったという体裁が必要なのだろう。

 本当なら、両親の許可を取るべきなのだが、私を置いてきぼりにして、留守にしたのが悪い。

 それに、庭の隅に扉が増えるぐらい、どうってことないだろう。


「それじゃあ、設置させてもらうね」


 アルフレットさんは扉を庭に置いた。ただ、それだけ。

 これで設置完了だろうか?倒れたりしない?

 近寄って、扉の周りをぐるりと一周する。


 表側は、両開きの開き戸になっていて、裏側は、ただのっぺりとした壁だった。

 高さ三メートル、幅二メートル、厚さは二十センチくらいだが、押してみてもびくともしない。

 アルフレットさんは軽そうに持っていたが、どうなっているのだろう?

 理由は兎も角、これなら倒れる心配はないだろう。


「それじゃあ、時々、人が出入りすると思うけど、気にしないでね」


 あっ! そうか。扉を設置するということは、当然、人が出入りするということか。深く考えていなかったが、それはあまりよろしくない。


 やはり、他の場所に設置してもらおう、とアルフレットさんを探すが、既に彼は姿を消していた。

 扉を開けて中に入っていった様子はなく、来た時といい、どうなっているのだろう?

 これも、魔法なのだろうか?

 まるで、狐につままれた気分だった。


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