第二十五話『壊滅ショウタイ』
「ダンジョンさん。魔法使いそうな奴を最優先で処理してくれ」
俺に気を取られていると、簡単に忍び寄られてしまうぞ?
「うわあぁぁあぁ!!」
悲鳴が響く。地面から出現した無数の触手が、後方で控えていた魔法職共の死角から飛び出し、まとわり付いたのだ。
何事かと、前線を張る大盾持ちの戦士数人は意識を俺から逸らした。その隙に一気に距離を詰める。
「敵を前に余所見とは、随分と余裕そうだな?」
気付くのが遅い! 盾を力任せにぶん殴った。威力を殺せず、周りを巻き込みながら強制的に後退させる。
「おら! もう一発!!」
別の盾を剣の腹で横凪ぎ。球のように飛んで壁に激突した。全力で放ったので、直ぐには次のモーションに移れない。
「セイッ!!」
それを見逃さず、剣士は気合いと共に上段斬りを繰り出した。……だが甘い。
「なにっ!?」
その一撃は触手が受け止めていた。
「触手君達、約束は守ってるか?」
彼等の息の根を止めてはならない。予めダンジョンと交わしておいた約束。
なので俺も刃を使わず、剣の腹の部分で強打している。峰打ちってやつだ。
それでも力加減を間違えて死んでしまいそうな人間が数人紛れているのが厄介だ。
あとは、そこそこの手練れが揃っているのだろうけど。
……もしかして、膨れ上がったラスボスとしての力の所為で、この程度のレベルだと弱く感じるのかな?
などと戦闘中に、無礼にも雑念を混じらせながら剣戟を回避する。
「『踏み込み甘くない? それで良く今まで生き残りってたね?』」
技能『挑発』を発動する。Lv5になった挑発に敵などない。逆上し大上段で斬り付けようとしてくる。がら空きになった腹部を殴り、吹き飛ばした。
「グウッ!」
呻き声を上げ、紙屑のように仲間を巻き込みながら戦線離脱。同時に数名の無力化に成功した。
「一気に減ったな。『揃いも揃って雑魚ばかりか?』」
今度は全体に挑発をする。これで勝負は決した。……かと思われた。しかし、ここで想定外の展開が起こる。
「お前ら、奴の挑発に乗るなよ。乗ったら奴の思うつぼだ」
怒りに身を任せそうになっていた部隊に理性を取り戻させたのは、この小隊の隊長である男だった。
あれ……もしかしなくとも効いてない? さっきの思考、早くも前言撤回を求められてる? ──調子のってすみませんでした。
Lv5でも効かない相手がいる。勉強になった。そう、勉強になったのだ。ポジティブに捉えていこう!
「ほう、冷静な者もいるようだな」
表面では平静を装う。内心、冷や汗でビッショリだけどな。
「だが逆に言えば、お前を倒せば全滅するのは明白。早急に片付けさせてもらうぞ」
ラスボスっぽい発言を心掛けながら、突っ込む。威厳を保つのって難しいな。
「『動くな』」
今度は『挑発』ではなく『威圧』をした。
『挑発』と比べればレベルは低いが、効果適面だったようだ。これは状況にもよるのだろう。
今、後衛の魔法職たちが蹂躙され、前衛の戦士たちも壊滅されかけている。たった一人の化け物相手に。
そんな状況だからこそ、効き目が普段以上なのだ。
もし、俺がやられかけている状態で威圧しても効きはしないだろう。
「ほら、吹き飛びな!!」
厄介な隊長を真っ先に潰す。懐に飛び込んで、剣ではなく拳で攻撃した。種族補正のかかった腕力での右ストレートは腹部に深々と突き刺さる。
俺の発言通り、彼は壁へと飛んでいった。
「グッ!!」
小さく声を漏らす。まだ完全に戦線離脱したわけではなさそうだーー
「まぁ、お前は大人しくしてな」
ーー触手がなければの話だがな。
壁から無数の触手が出てくる。それらは隊長である男の手足を拘束する。余程の馬鹿力でないかぎり、身動ぎ1つ許されない。
「これで隊長はしまいだな。あとはゆっくり処理していこう」
頭を潰せば、どんな生物も絶命する。統率の取れた部隊。それらが瓦解しそうな時、精神的な支えになった者が脱落した。
こうなれば崩壊は誰の目にも明らかだ。
「はい1つ。これで2つ、3つ4つ……」
子供が数え歌を口ずさむかのように、命を摘み取る。
あっという間に隊長だけを残して、部隊は壊滅していた。
「よし! 無事に対処できたな。あとは事後処理をしないと」
ここで取れる選択肢は大きく2つ。
1つ目は残しておいた隊長を使って脅しをかける。
これをすれば、さらに貴重な資材などを搾取出来る可能性が高い。だが、手痛い反撃を食らう可能性も十分ある。だから気乗りはしない。
2つ目はこの隊長を使って偽の討伐報告をさせる。
恐らく相手視点だと、俺はただの魔族であるとしか思われていないはずだ。まぁ、外を自由に出歩くダンジョンマスターがいるとはまず考えないだろう。
それなら、どうにかして隊長を丸め込んで偽の報告をさせた方が良い。
「これでいこう!」
丸め込む為の妙案がないか他の者に聞くため、触手さん達に手伝ってもらい一ヶ所に集めてもらうことにした。
「ダンジョンさん。こいつ絶対に逃げれないようにきつく抑えといてね?」
そう念押しして、俺もこの場から一旦離れるのだった。
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