第二十四話『小隊ショウタイ』
「あそこまで重装備の人間が、何故あんなにも……」
遠目からでも分かる、金が掛かった鎧を身に纏った小隊規模の人の群れ。軍隊を思わせるその出で立ちに身震いがする。
後方には支援職だと予想出来る、ローブを着た人物が数名。手には杖を持っている。エーファと同じで魔法を主に扱うのだろう。
「基本、害のないジュラの大森林にこの規模の武力を有した部隊の派遣。時期から考えると…………狙いは俺か!?」
思い当たる節は、あれしかない。
キーサの元から入手した機密されるべき情報の数々。
彼女の死が発覚し、何者からか俺の事がバレ、部隊を編成し派遣する。
10日あれば可能だろう。
「クソ! 予期出来た事態だ。だが、そうと決まった訳でもない。確証を得るまで、俺の失態とは認められないだろ?」
なんとかして責任を逃れたい。
「君達はダンジョンにまで戻るんだ。誰にも見付からないように、捕まらないように。分かったな?」
「にぃちゃんはどうするの?」
「俺は囮になる。絶対に帰るから、なにがあっても助けようとか考えるなよ? 足手まといになるだけだ」
先に釘を刺しておく。これで無駄な思考は削除した。
「ほら、いけ!」
5人はダンジョンに向けて一直線に駆け出した。
俺は確実に近付いて来ている部隊の前に、わざと出た。
「お前ら、この森になんのようだ?」
魔族らしき人物が脈絡もなく現れた。その現状に驚きを露にする。まだ距離はある。しかし、奴らの行進は止まった。
一定の距離感は大切だろうが、この程度だと一足飛びに詰めれるぞ? 判断ミスじゃないのか?
「魔族よ。それは貴様の方が知っているのではないか?」
代表して発言している所を見ると、コイツが隊長か。なんともまぁ、余計な事を言ってくれる。
──俺の過失が確定してしまったじゃないか!
「それは俺が持っている裏に蔓延る闇の情報のことか?」
「その通りだ。察しが良くて助かる」
「お前らの主人からしてみれば、知られては困るだろうからな。俺だったら真っ先に抹消する」
ここで持っている書類の山を受け渡すと提案してもいいか。無意味だろうが、時間稼ぎにはなるだろう。
「俺が所持しているグドーンで行われている悪行の証拠。全部、譲渡すると言ったらどうする?」
「なに?」
ここで意外にも長考を始める。小隊長の他にも、明らかに反応を示した人物が数人。
「俺が死んだら、もう一生手に入らないぞ?」
チャンスかもしれない。自分が有利になる条件を付け加える。
「……いや、断る。私は貴様を葬るよう、命を受けた身。見逃したとあっては沽券に関わる」
口ではそう言いつつも、彼の目は反対の意思を示していた。
そもそも魔族と人間では身体能力が基礎から異なる。種族の違いで、ここまで差が出るのかと、もし俺が人間の立場だったら、そんな泣き言を言いたくなるほどだ。
俺は魔族ではない筈なんだけどなぁ。魔族の定義もイマイチ良く分かってないから、強く否定も出来ないけど。
とりあえず、結論としては人数を集めようと不利なのには変わりなく、彼からすればなるべく戦うのは避けたい相手なのだ。
「そうか、残念だ。ならば正面から叩き潰してやろう。この先に俺のダンジョンがある。そこで皆殺しにしてやろう。待っているぞ。怖じ気づいて逃げるなよ?」
5人もダンジョンに着いた頃なので、俺は転移する。
「さて、新規で技能を取得でもしようかな。ダンジョンさん、入り口は見えるようにしといてね。あ、あと帰って来た?」
ダンジョンが近かったおかげで転移が可能だった。息を大きく吐き、椅子に座り足を組ながら、リストをチェックしながら語りかけた。
触手が頷く。5人は無事に帰還したらしい。
「そう、よかった。あ、事情は把握してるだろうけど、これから戦闘だよ。触手君達を沢山用意してね。あと、子供達をここに」
着々と準備を整える。
──数分後。敵は警戒しながら、ダンジョンの中に侵入した。
まだ、魔物も何もいない。ただの迷宮を歩いて来る。それを待つのも時間の無駄だ。
俺はダンジョンに頼み、奴らを自室まで転移させた。
「さぁ、殺戮ショーを開演しようか?」
突然の出来事にたじろぐ小隊を前に、俺は手を広げる。
後ろには触手の壁で守られた、12歳以上の子供達がいる。無様な格好は晒せない。
俺は複数の触手を従え、片手で大剣を持つ。剣先を向けながら、さらに言葉を紡ぐ。
「ショーの開演前に、自己紹介が遅れたな。俺はナナシ。このダンジョンのラスボスだ。じゃあ、始めようか」
鋭い牙を、隠すこともなく。
ギラギラと獲物を狙う眼光は鈍く輝き。
地獄のような時間は幕を開ける。
俺の一言と共に──
「イッツ・ショーウ・タァーイム」
──虐殺、開始──
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