第二十話『処理デアイ』


 あれからキーサが語ったのは自分が陰で行ってきた悪逆非道な活動の数々。その全てを赤裸々に話す。そうしないと俺が有無を言わさず始末するからだ。


 信じていた人からの裏切り。子供達はみんな泣いていた。中には友達を、家族を奪われた子もいる。


 そんな彼、彼女が許してくれる訳もない。大人でも受け入れきれないような真実だ。まだ心が不完全な状態の子供には不可能だろう。


 大多数が絶対に許さないと言った。言葉にせずとも目で訴えかけてきた。


 憎しみの籠った瞳は美しく輝いている。


 ──しかし、中には許すと言う子もいる。その少数派はきっと心が強いのだろう。これから使えそうな人材なので顔を覚えておく。


「結論は出たな。これ以上は無意味だ。君には来てもらおう」


 もう少しだけ時間を、ご慈悲を! そう喚き散らすキーサを引きずり、部屋を出た。最後の方には商売道具にしていた子供達に助けを求める始末。虫酸が走る。


 心に傷を負った子供達の事は、大分回復したエーファとベルに任せる。

 人に裏切られる辛さを知っているエーファと、芯の強いベルなら大丈夫だろう。


 ……移動した俺は応接室で誰にも悟られず、静かにキーサの命を奪った。首を純粋な腕力のみで独楽を回転させるように折った。

 無駄に苦しめる事なく即死させたのは彼女が求めた、せめてもの慈悲だからだ。


「俺は君に直接の怨みはないからな。どちらかといえば、感謝してるくらいだ」


 沢山の技能を有難う。将来有望な人材を有難う。そしてこれから役立つ知識を、どうも有難う。


 キーサと応接室に転がっている死体を余すことなく『亜空間収納』に片付け、彼女の部屋に移動した。


 そこには重要そうな書類が山ほどあった。


「上等な家具だな。希少そうなものもある。まるで宝箱だ」


 目につく物を手当たり次第に盗んでいく。俺の特徴技能は万能だからな。無機物なら制限なく収納出来る。


 詰め込み作業が終われば、次は書類に目を通す。


「やっべ、読めねぇ……」


 勉強不足です。誠に遺憾ではあります。


「だが見たところ、色んな言語が使われてる。暗号なのかな? 情報を盗まれるのを防ぐ為だろう」


 ならば、あれが使えるかも。ここで裏ワザを使用した。


 なんと俺が様々な物を収納している空間はダンジョンと繋がっているらしい。

 さらにさらに、レベルの上昇に伴ってか離れていてもダンジョンと意思の疎通が可能になった。


 彼が喋れるようになる日も、そう遠くないかも?


「ダンジョンさん、死体から技能を抜き出して、リストアップ。それを送ってくれないかな?」


 1分とかからず、リストの紙が送られてきた。


「お、予想通り」


 多分キーサが持っていた技能。名前を『言語理解』があった。それを取得して、もう一度書類に目を通す。


「内容が理解できる。凄いなー、これ。便利便利」


 貴族の暗部や機密情報、取引先の事。様々な情報が記されている。どれだけ街の闇に関与していたのか。


「それじゃあ有意義に活用させてもらうよ」


 1つ気になった紙だけを残して、後の物は片付ける。


「エーファ達と合流するか」


 ゆっくりしている時間も無さそうだ。皆のいる大きな空間に戻る。



 ──戻ってきた。すっかり元気そうなエーファに近付き話をする。


「俺は用事が出来たから、出掛けてくる。君はここで待っていてくれ。子供達が心配だからな」

「はい、分かりました!」


 歯切れの良い返事をする。それを受け、外套の被りを目の辺りまで深くする。


「…………」


 無言で裾を引っ張るベル。いつの間に近付いて来ていたのか。


「どうした、ベル? 寂しいのか?」


 目線を合わせて尋ねる。彼女は小さく頷いた。


「大丈夫、すぐに帰ってくるから。それに、ここにはエーファが居る。だから寂しくなんてないよ」


 耳がペタンと伏せてしまっている頭を優しく撫でてやる。目を細め、喉を鳴らす。可愛らしい。

 ベルは裾を掴んでいた手を離す。


「俺は君を裏切らない。嘘はつかない。約束する。だから信じて待っててほしい」

「……うん」


 その言葉に今度は大きく頷いた。


「よし! 行ってくるよ」



 孤児院を出て、手に入れていた地図を頼りに街を駆ける。


 キーサの部屋で入手した紙に書いていた人物に会うため。

 野望の実現目指し、ダンジョンを強くする為に。


「ドワーフか……」


 口の中で呟く。


 未知との遭遇を楽しみにしながら加速する。俺は少年のような心を胸に宿し、駆けた。




 ──移動完了──



「お邪魔するよ」

「……誰だ?」


 工房に侵入した不審者に睨みを利かす、小柄な体躯の男。立派な髭を蓄えた、この男こそドワーフだ。


 これが、時期に心強い仲間となる人物との初の対面だった。


「不審な者じゃない。ただ貴方に重要な情報と相談があって……」


 そう言いながらニヤリといやらしく笑った。

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