第十六話『騒動ハジマル』
『亜空間収納』から計四つの死体を放り投げるようにして、ダンジョン内部に捨てる。
触手君が束になり、それらを受け止めた。まるで餌やりだ。その表現はあながち間違いでもないのだけど。
一本の触手君がブンブンと激しく全身を揺らしながら近寄ってきた。
「ダンジョンさん、ゴミを投棄されたと思って怒ってるでしょ? でもそれは君へのプレゼントでもあるんだよ」
彼の特性を踏まえて思考すると、この四つの死体はただの死体とも呼べないのだ。
何故なら、彼は死体から様々な物を抜き取れる。例えば技能とか。魔法だとかだ。俺の知らないだけで、それ以外の物もこっそりくすねているのかもしれないし。
「理解した? そうこれはダンジョンさんにとって重要なものなんだよ」
一転して、触手君は機嫌を良くしてスリスリと頬擦りしてくる。
「腐らないうちに仕舞った方がいいぞ?」
喜びで、はしゃぎ回っていた触手君達は我に返り、目にも止まらぬ速さで死体を吸収した。
「ワイルドベアは食料になるかもだから、保存しといてね」
エーファとサシャを見送って、まず最初にしたのはこれだった。
その次に日課の素振りをする。大剣を中段に構え、上段まで振り上げ、振り下ろす。
作業のようにやるのではなく、一回一回精神を集中させ、何処に力を込めてるのか確認しながらやる。ただ、数をこなせばいいってものでもないのだ。
他にもエーファと考案した体作りの為の動きを粗方済ませて、ダンジョンに呼び掛けた。
「ダンジョンさん、触手君を出してくれるかな」
この触手。こう見えて実は硬い。どれくらい硬いかと言うと、俺が本気で斬りつけても傷一つ付かないくらい。
なのでたまに練習台になって貰っているのだ。
こちらに迫ってくる触手に触れられないよう回避しながら、攻撃を加える。守備力自慢で捨て身の特攻をしてくるような相手との戦闘などを想定しての実践練習になる。
そうしてダンジョンにボロボロにされ、俺は疲れ切った体をなんとか動かし椅子に座る。
「ダンジョンさん、リンゴン頂戴」
取り囲むように無数のリンゴンが地面から出現した。
「1つでいいから! お茶目かよ!!」
彼は俺の反応を楽しんでいる節がある。ツッコミを入れられると心なしか嬉しそうにするし。
「リンゴンやエーファが作ってくれる野菜料理以外にもレパートリーを増やしたいよな。食事の」
エーファはエルフなので、肉料理を好まない。これも個人差があり、肉大好きなエルフも中にはいるらしい。だがそんな人は少数派で、エーファのように野菜しか食べない、いわばベジタリアンばかりだと。
なのでエーファは肉料理を作れない。俺はそもそも料理を作れない。
「肉は一杯あるのにな。圧倒的人材不足……」
はぁ、とため息をついた。この度の街進出で解決されるのを強く望む。
リンゴンを咀嚼しながら、改善点や新しく手を出したい事を考える。
「もっとダンジョンらしくしないとな。改装工事にも着手して。その為には、専門的な技能や知識を有した人がいるし。商売とかもしてみたい。あと、味気ないこの部屋をもっと華やかに……」
欲を言えば、いくらでも出てくる。
1つずつ確実に解決していかなければな。
リンゴンを食べ終わり、いつも通り椅子に座って眠りについた──
──2日後──
日々の鍛練を怠らず、今日も自分の肉体と向き合っていると、エーファとサシャが息を切らしながら帰ってきた。
「ど、どうした? そんなに急いで」
そんなに俺と会いたかったのか。とかふざけれるような空気ではなさそうだった。
「ナナシさん! 私の友人を助けて欲しいのです!!」
エーファが初めて俺にお願いをしてきた。
我が儘(?)を言ってきた。
「あぁ、任せろ」
詳しい話を聞く必要はない。二つ返事で引き受けた。
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