第十三話『戦闘ニンゲン』
「俺は魔族じゃないし、君達に危害を加えるつもりはないのだけど」
無駄だろうけど説得をしてみる。
「その見た目で魔族じゃないだと! 虚言を吐くのも大概にしろ! お前達魔族はそうやって騙し、信じたところを殺すのだろう!」
どうやら本物の魔族には会った事ないらしい。噂を鵜呑みにするタイプのようだ。それに俺の見た目は恐ろしく映るのかもしれない。一種の錯乱状態なのかも。
なんにせよ敵対し、抵抗の意志がないこちらに害を成そうとしたのだ。それ相応の代償を受けてもらおう。
「あの……もしかしたら悪い人じゃないかもしれないよ」
おっ。彼等のグループにいる気の弱そうな女の子が、リーダーらしき人物にそう言った。
「サシャ! お前は優しすぎるぞ。そんな筈ないだろ。アイツはどう見たって悪だ」
「でも、今だって攻撃して来ないし……」
「それはアイツに余裕があるからだ! 魔族は人間より格段に強い。だから攻撃して来ないんだよ!」
君は馬鹿すぎないか? お前達に用があるのなら不意討ちなりなんなりして拐ってる。それは強いのとなんら関係ない。
いくら自分が強い自覚があれど、もしものリスクを考えたら、安全な方法を取るだろ。少なくとも俺だったらそうするね。
卑怯だとか言ってられる世界じゃないのだから。
「彼女の言う通りだ。俺はなるべく戦いたくない。平和的に交渉しないか?」
「惑わされるな! アイツはそうやって俺達を油断させるつもりだ!」
馬鹿も休み休み言えよ。こんな奴をリーダーにしたのは誰だ。他の二人もなんとか言ってやれ。
「そ、そうだな! 魔族の言葉なんて信じられない!」
え? 嘘だろ……
「もう逃げるなんて無理たよな。だったら戦うしか……」
おいおいおいおい、冗談だろ。揃いも揃って馬鹿ばっかりかよ。あの子だけ? マトモなの。冷静な判断に欠けてるなんて話じゃないぞ。
「あーもういいよ。どっからでも掛かってきな。その代わりどうなっても知らないぞ」
なんだか面倒になったので、けだるげに忠告だけして剣を構えた。
ワイルドベアが殺されてるとか、エルフが一緒にいるとか。周囲を観察すれば、疑問に思う点は一杯あるけどなぁ。
威勢よく果敢に斬り掛かってくる。片手で持った大剣で全て防ぐ。
一撃一撃が軽い。踏み込みも甘いな。まだまだ駆け出しのようだ。
横から槍を持った男が突きを放ってくる。避ける必要はなさそうだ。
彼はエーファの風魔法が直撃し吹き飛ばされた。
死角からの一発。堪えるだろうな……
短刀と投げナイフを使う別の男はエーファに集中している。
唯一、俺の声に耳を傾けてくれた女の子はどうしていいか分からず硬直していた。
「サシャ! なにしてる! お前も魔法で支援しろ!!」
槍の使い手が怒声をあげた。
「仲間割れか? 君らこそ戦闘中なのに随分と余裕だな」
この煽りには技能の効果も混ざっている。逆上して単調だった攻撃が、より一層単調になる。
槍の奴も参加しようとするが、エーファに阻止される。
怒りで我を失えば、それは最早敗北と同義だ。
「細かい斬り込みの中に大上段を忍ばせるとか、舐めてるのか?」
頭上に迫る剣を迎撃。相手の得物は吹き飛ぶ。そして隙だらけになったなった腹を横一閃。奴は上半身と下半身がお別れをした。
「一人死んだけど、降伏とかしない? 今からでも全然間に合うけど」
エーファに気を取られていた短刀と槍の男二人。
「貴様ァァアァァァアアァ!!!」
槍の方が雄叫びと共に突っ込んできた。
だから怒りに身を任せた時点で、負けてるの。なんで分からないかな。
コイツも隙だらけだったので突きを回避して、その槍をへし折る。
「なっ!?」
驚愕の声を短く漏らし、絶命した。遠心力で威力を高めた凪ぎ払いが頭部に直撃し、頭が潰れたからだ。
「よし、残るは一人かな」
短刀の方に目をやると、エーファのレイピアが彼を貫いていた。
「こちらも終わりました」
「あ、そう。ご苦労様」
レイピアを引き抜き、血を払って淡々と状況報告をするエーファを労う。
「もしかしなくても心臓を一突き?」
「はい、これが最も効率が良いので」
人を殺すのに効率とは。恐ろしい限りだな。エーファの事言えないけど。
「勉強になるなぁ」
なんて的外れな感想を口にしながら、へたり込んでしまっている女の子の方に近付く。
「ヒッ!?」
怯えた目で俺を見る。体も震えてしまっていた。
「君を連れて帰るけど、安心して。抵抗しない限りなにもしないから。だけどちょっとだけ気絶しててね」
膝を折って目線を合わせ、優しく声を掛けた。勿論武器は持っていない。
「よろしくエーファ」
「お任せください」
エーファの魔法で女の子は意識をなくした。
便利だな。なんて思いながら後始末を始める。
生命なき物はなんでも仕舞えれる『亜空間収納』にワイルドベアと三人の男の死体を詰め込み、女の子を担いでダンジョンに戻った。
「思わぬ収穫だったな。……ワイルドベア狩りはまた今度だな」
「楽しみにしておきます」
人殺しを終えた直後でも変わらず、エーファは笑顔だった。
二人とも血濡れているのにも関わらず、平常運転だ。
「実験も出来るし、良かったのかもな」
帰路を行く足取りは、とても軽かった。
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