第十話『鍛練フタリデ』
「エーファは魔法が得意なんだったよな?」
「斬り合いとかに比べれば、まだ使い物になるだけですが」
落ち着いて彼女の戦闘を観察する機会は少なかったが、前みた戦いの印象で言うと圧巻の一言に尽きるものだった。
エーファが使う武器は三種類ある。
近距離戦に特化するレイピア。
中距離戦に特化する杖。
遠距離戦に特化する弓。
この三つを巧みに使い分けるのが、彼女の基本的な戦闘スタイル。
三種の神器みたいで、正直格好いいと思う。しかも伸縮自在で、普段は小さくして腰に着けている。
そんな彼女の欠点を補う為に特訓の提案をする。
「とりあえず魔法の特訓をするか? 俺が相手するよ。的だと思って存分に攻撃してこい」
携えた剣を構え、距離を取る。躊躇しているようなので、駆けて詰め寄り斬りかかった。
流石エーファ。その身軽さで余裕の回避。
「そっちから来ないのだったら、こっちから行くぞ」
やった後に言う台詞ではない。だが彼女も覚悟を決めたのだろう。腰の杖を取り、大きさを元に戻す。
先端を俺に向け、照準を合わせる。
魔法については詳しく知らないが、恐らく初級と思われる風系統の魔法が飛んできた。
愛剣を盾代わりにして受け止めた。この程度なら容易い。
「君の力はそんなもんか?」
挑発する。技能の効果もあって、エーファは心を乱される。
二発目は、一発目に比べて威力がちょっと強い。続けざまに三発、四発、五発……
どんどんと威力が増していく。次第に衝撃で手が痺れ始めた。このままだとマズイ。
「オラッ!!」
気合いを込めて一撃。エーファに対してではなく、ダンジョンの床目掛けて剣を突き立てる。刺さった剣はその場に固定された。
「『亜空間収納』」
特殊技能で新たに武器を取り出す。
「これとこれでいいか」
魔法の来る間隔を見計らって、剣の前に出る。エーファの正面、剣を背にして立つ。
また魔法が飛んできた!
「フンッ!!」
今度も気合い一閃。全力投球した。何を? 種も仕掛けもないただの石をだ。
魔法と正面衝突して相殺した。弾けた風。全方位に突風が巻き起こる。背にした剣に支えられ、俺が体勢を崩す事はない。
だが、彼女は違うだろ。俺はそう予測していた。
亜空間から取り出していた細身の剣を片手に駆け、斬りつける。そのつもりだった。
「な、なに!?」
予想は裏切られた。吹いた風に目を少しやられ見えていなかったが、彼女は微動だにしていなかったのだ。
「チッ!」
激しく舌打ち。溜め終わった魔法が再び放たれる。一か八か……やってみるしかない!
下に構えていた剣を、真上に切り上げる。すると、その速い一太刀は魔法を切り裂いた!
──だがしかし、ここでまたもや不測の出来事。弾けた風が先程と同じように突風を巻き起こした。
「グッ……」
体勢を崩し、地に伏せる。剣も手から離れてしまっていた。
「勝負ありましたね」
鋭いレイピアを突き付けられ、俺は大人しく投了した。
「あぁ、俺の負けだな」
最初は彼女の特訓のつもりだったのに、いつの間にか勝負になっていた。
「大丈夫ですか?」
そう言って手を差しのべてくる。
「あぁ、体だけは無駄に頑丈だからな。見ての通り無傷だ」
軽口を叩きながら、その手に掴まり立ち上がった。
「魔法を斬られた時は驚きましたよ。どうやったのですか?」
「いやー、あれは俺にもよく分からないんだよね。なんとなく出来ちゃっただけだから」
「そうなんですか」
「それを言ったら一度目の突風でエーファが体勢を全く崩してない方が、俺は驚いたよ」
「あれは風の加護があるからです」
「風の加護?」
エーファの説明では、エルフは皆『風の加護』とやらを持っており、風の影響を受けないらしい。
さらに、それに加えて風の魔法の威力も高めてくれる。応用すれば風の魔法を武器などにも纏わせれるなど。色々と凄い加護なのだと。
「だから弓が遠距離武器なんだな」
「はい。矢に風を纏わせれば、使い手の技量次第で何処までも狙えますから」
弓もそうだが、レイピアの方も纏わせる事で貫通力などを向上させているとエーファは言った。
「ってことは、やはり課題は魔力の量だよな」
魔力切れを起こせば、弱体化どころの話じゃない。そう思って魔法をバンバン使わせる特訓を試みたはずだったのだが。まさか熱くなって、負けるとは……
役立たずにも程があるぞ、俺!!
「こればっかりは地道にやっていくしかないですね。頑張ります!」
彼女が決意を新たにしてくれている。そのタイミングで、仕舞っていた道具を思い出す。
「あ、そうだ。エーファの役に立つと思って、これ持ってきたんだった。すっかり忘れてた」
ダンジョンから貰った宝石の欠片みたいな、それをエーファに手渡す。
「これは?」
「まぁまぁ、いいから。試しに使ってみてよ。効果は使ってみてのお楽しみ」
「ど、どうすれば?」
「噛み砕けばいい筈だよ」
エーファは宝石の欠片を口に含み、噛んだ。砕けてさらに小さくなった欠片はエーファと一体化した。
「こ、これは……?」
「ステータスみてみて。変化してると思うから」
彼女は自分のステータスを確認する。
「あ、本当です! 『魔力増大』の技能と使える魔法が増えてます」
「おぉ、良かったな!」
成功したようなので種明かし。さっきのがなんだったのか説明する。
「そうだったのですね。貴重な物を私なんかに……ありがとうございます!」
エーファは心から喜び、感謝していた。別にいいよ。と、手を振って照れ隠しする。
「それじゃあ、俺は他にもやらないといけない用事があるから、この辺で失礼するよ。エーファも鍛練頑張って」
「お疲れ様です! それと本当にありがとうございます!!
俺はまた手を振りながら部屋を後にした。
──通路。俺は一人で歩いていた。
「まるで彼女を実験台にしたみたいだな」
まるで、ではなく正しい意味でそのままだが。エーファには申し訳ないが実験台になってもらった。自分に使用して何かあっても困るからな。
「挑発に乗っても、俺を本気で死に至らしめるような攻撃はなしか」
特訓をして、肌で感じ取った。彼女は挑発されようとも殺意はなかった。必然的に信頼の度合いは増す。
「まぁ、だからこそ技能と魔法を渡したんだけどね」
信用出来なければ、危険過ぎて渡してない。だって怖いもん。なにするか分かったものじゃない奴に力を与えるとか。
「負けたな……」
敗北を経験した。それでも死んでない。死んでなければ成長の余地あり。
「俺も鍛練しなければな!」
体験した内容の整理は終了!
エーファを見習って、俺は外に行く。今日も猪狩りだ!!
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