第八話『野望ナナシ』
エーファを仲間にして、数日経ったある日の事。彼女が、なんの前触れもなく尋ねてきた。
「そう言えば、ここは一体なんなのですか?」
「ダンジョンだよ。なんだか今更な感じがするけど」
「気にならなかったものですから」
ダンジョンと聞いても、驚きは薄いようだ。もう数日経ってるし、魔物もいない。本当に今更過ぎて、警戒するのも馬鹿らしいのだろう。
「ダンジョンと言えば一般的に魔物がいたり、罠や宝箱があったり、ボスが存在したりするものだと思うのですが、ここにはそう言う物はないのですか?」
「魔物も罠も宝箱も、俺が産まれた時にはなかったな」
「そうなんですか……え? 産まれた時?」
一度は聞き流した言葉を、遅れながら拾う。
「あ、言ってなかったな。俺、ここのラスボスなんだ」
「えぇ!? そうなんですか!!」
これには流石に驚愕するエーファ。至極当然の反応に、なんとなく頷く。
「ナナシさんのような良いラスボスもいるんですね」
染々と呟く。
『良いラスボス』の字面凄いな。パワーワード感も計り知れないし。
それにこの数日で、敵対心を生まない程度には友好関係を築けていたようで、何よりだ。
「ナナシさんは、このダンジョンに住んでいるのですよね」
「そりゃあラスボスだからね」
生活してる雰囲気ないから、疑われてもしょうがないかもだけど。
「これからどうするつもりなのですか?」
「それも今更だね。俺は俺自身とダンジョンを強くしていくつもりだよ。当分の目標はね。あとここをダンジョンらしくする為に魔物とか宝物とか集めないと。ゆくゆくは最凶のダンジョンとか、呼ばれるようになりたいね」
心の中に抱いていた野望のようなものを、初めて人に話した。こうして声に出してみると、気恥ずかしさがある。
「それは、やはりナナシさんがラスボスだから思うのでしょうか?」
思案顔で吃りながらエーファは問う。彼女にとっては中々に真面目な話なのだろう。
「どうなのかな? 俺もよく分かってないけど、そうなのかもしれないね。でも、違うとも言えるかも」
「?」
頭上に?を浮かばせている。自分でも上手く伝えれる自信はないけど。
「これは趣味みたいなものかな。飽きたらダンジョンを棄てて旅に出るかもしれないし」
その発言に食いついたダンジョン本人。触手君で抗議してきた。
「うわっ! ナナシさん、これはなんですか?」
「あれ? エーファ触手君知らないっけ?」
「知りませんよ!」
「あー、じゃあ紹介しとくね。これ触手君。ダンジョンの一部だから何か困ったら彼に」
仲間達が殺される映像にも最後の方に映ってた筈なんだけどな。なんて言ってみると、エーファは少し表情を暗くし、最後の方は放心状態だったので、記憶がないです。と答えた。
あれだけの裏切り行為の告白。忘れようとしても忘れれないよな。
だからこそ俺は完全に彼女を信用しきれないのだ。他種族に裏切られた彼女が、もしかしたら俺を裏切るかもしれない。死んだ彼等と同じように。
「触手君ですか。よく見ると可愛いですね!」
当のエーファは触手君と戯れていた。随分と素敵な感性をお持ちのようで。
とりあえず、彼女が抱えた闇が変な方向に発展せず、薄れていくのを望む。
美女と触手の絡みと言う、官能な方面に行きそうな組み合わせを視覚と聴覚で楽しみつつ、俺はそう考えた。
「私はナナシさんのお手伝いをすれば良いんですね!」
彼女は献身的な眼差しを向けてくる。
「そうだね。そうしてくれると助かる」
「分かりました! 傷も大分癒えてきましたし、全力で手伝いたいと思います!」
「あぁ、よろしく頼む」
手を差し出す。嬉しそうな顔でエーファが近付いてきた。
そして俺は彼女と固く握手を交わした。
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