第七話『仲間エルフ』
中ボスの間(仮)に、俺とエルフの女性はいた。
彼女と出会って数時間が経過した。治療を終え、衝撃の真実が判明してから、かれこれ数時間だ。つまり既に話は丸く収まっている。
頭が柔らかく、理解ある人で本当に助かったと思っている。
俺が取った手段を簡単に説明しておこう。これからも、有用そうなダンジョンの能力なので頭に入れておく一環で。
そう今回はダンジョンさんがやらかして、その尻拭いをダンジョンさん自らがした形になっている。
「あの人達が、あんな事を企んでいたなんて……」
心にダメージを受けている彼女は、ぼそりと呟いた。その表情は何処か上の空だ。
この状況がヒント。これだけでは難しすぎて答えは出ないだろうから、正解を。
ダンジョンさんには、彼? の内部で起きた出来事を映像で記録する機能があったのだ。因みに初めて知った。
「ダンジョンさんって性別あるの?」
疑問に思ったので、小声で質問してみる。すると、俺とエルフの女性の間にひょっこり顔を出す触手。俺が見たのを確認すると、直ぐにいなくなった。
「中性って事かな」
男と女の間と言う意味だと判断した。ならば自分と同じ性別、男性であると仮定しておこう。その方がやりやすい。
「君は、あれを知って帰るのかい?」
酷な問い掛けだと、分かっている。
「私の帰る場所はもう何処にもないじゃないですか……」
瞳に涙を溢れんばかりに溜めている。今にも零れ落ちそうだ。
彼女が知ってしまった真実。その映像は関係のない俺の脳裏にも焼き付いて離れないほど鮮烈だった。
仲間である筈の、三人がしていた会話の内容は確か、こんな感じだ。
──彼等の最後の記憶──
ワイルドベアから逃げ、動物の気配がない洞窟に隠れた三人の男女は、その安堵からか口が軽くなっていた。
「アイツが囮を自ら引き受けてくれて助かったな」
「はぁ、はぁ……そうだな。まぁアイツが言い出さなくても、それとなく押し付けて逃げてたけどな」
「でも彼女、死なないでしょうか。それだけが心配です」
「生命力だけは強そうだし大丈夫だろ。唯一の生き残りなんだから」
「アイツのパーティーが、アイツを残して全滅した話だろ。それは仕込まれた事なんだから別物じゃねぇか」
「それもそうだな!」
下衆な笑いが木霊する。彼女のパーティーは、かなり前の話ではあるが、全滅していたのだ。
依頼内容に含まれてない魔物の発生で壊滅した。たった一人彼女だけを残して。
「彼女が弱ってくれれば、こっちのものですからね。後は手筈通りに」
「奴隷にするって寸法、だよな」
「ギルドから報酬を貰えて俺達は冒険者を辞めて当分遊んで暮らせる。って訳だな」
響く高笑いが重なり合って三重奏。耳と精神に悪い不協和音を最期に彼等の生存記録は途絶えた。
ダンジョンさんが放った無数の触手君によって跡形もなくなった。
──記憶終了──
一部始終を目撃した彼女は心を病み、この有り様と言った具合だ。
元気づける為の言葉など、持ち合わせていない。こんな時、なにをしていいのか。なにを言っていいのか。俺には皆目見当もつかなかった。
なので、ありのまま事実を伝える。
「帰っても、いずれは奴隷になる。それしか道は残ってないなら、ここに居れば良い」
「え?」
突然の提案に目を丸くし、こちらを見る。
「だから、ここにいればいい。丁度人手が欲しいと考えていた所だ。馬鹿正直に戻るよりも、ここの方が幾分か安全だろうし」
「でも……」
「なにを迷う事がある?」
「貴方は何故、見ず知らずの私などに優しくしてくれるのですか?」
「困ってる人がいたら手を差しのべる。当たり前だろ?」
「だけど、種族が違うじゃないですか!」
声が自然と大きくなってしまった。そんな印象を受けた。
彼女は気付いて、口元を押さえる。
「俺はね、種族の違いなんて些細なものだと思うよ。現に、全く種族の違う俺と君が普通に会話が出来てるくらいだし。話し合う意志があれば、案外どうとでもなるよ」
一呼吸置く。
「そもそも君の方が種族の違いなんて気にしてなかったじゃないか。人間の仲間を心配したり、俺に友好的に接したり。そんな君だからこそ、俺もここにいれば良いと言ったんだよ。そうじゃなきゃ怖くて言えてないさ」
ハッとした表情をする。まるで不信感や底知れぬ不安、猜疑心が一斉に晴れたようだった。
「そうですね……裏切りが衝撃的過ぎて忘れかけてました。私の方でしたね、見た目や種族で判断するのは良くないと言ったのは」
両の眼を固く瞑り、開く。心機一転、生まれ変わったかのような面持ち。
「ありがとうございます。お言葉に甘えて、ここに居させてもらおうと思います。これからよろしくお願いします!」
「あぁ、こちらこそよろしく……そう言えばまだ名乗ってなかったな。かと言って名乗る名前もないのだけどね、俺は。とりあえずナナシだ」
「私はエーファです」
「エーファか。良い名前だな」
褒めると、くすぐったそうにする。
とりあえずエルフのエーファが仲間になった。
この部屋は自由に使っていいから。と言付けて、その場を後にする。
俺は廊下を歩いていた。
「ダンジョンさん、聴こえてるよね?」
返答はないが、続ける。
「彼女、エーファが不審な動きをしてたら拘束してね。もしも抵抗して、危なそうだったら迷わず殺して。ダンジョンさんなら出来るよね? 頼んだよ」
そう言って、久しぶりに歩いてダンジョンの外に向かう。
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