第六話『捕食オナカマ』
「エルフねー」
彼女達に関する事は知識としては一応頭の中にある。森の民で、弓と魔法の扱いに長けている。身体的特徴としては耳が尖っており、男女共に細身とか。
長命で森にこもっているので、滅多に会えない珍しい種族だ。
「やっぱり弓とか得意なの?」
率直に尋ねてみた。
「少しだけ。嗜む程度ではありますが扱えます」
正直に答えてくれる。謙虚さは種族としての特性か、彼女個人のものか。比較対象が居ないのでハッキリしない。
「凄いな。俺なんて弓を握った経験もないよ」
「そうなのですか?」
「あぁ。でもその代わり俺にはこの剣があるからね」
「大きくて頑丈そうですね」
頭上に掲げてみせた剣を見て一言。相棒の最大の長所はその頑丈さだからな。
「ハッ! 世間話をしている場合ではありませんでした!!」
よく分かってるじゃないか。と、誰でも一目見れば抱く印象言っただけの彼女に感心していると、当の本人が声を荒らげた。
「……そうだな! 速く君の手当てをしないと、傷だらけなのを失念していた」
離れていた彼女に再び近付く。ジェスチャーで布と傷薬をダンジョンに用意させる。
要求した物は地面から浮き出すように現れた。
「それはとてもありがたいのですが、私は、私の仲間がどうなったのか心配なのです」
「仲間?」
「はい。数日前からパーティーを組んでいた方達なのですが……」
ここで問題発生。彼女の話を聞くところによると、そのお仲間さん達は熊(『ワイルドベア』と呼ばれる魔物らしい)と交戦した際、エルフである彼女を残してその場を離脱したらしい。
なんでも、そのワイルドベアは通常個体よりも強靭で狂暴だったらしく、彼女達の手にはおえなかったと。なので援軍を呼ぶべく仲間達は街へと走り、彼女は囮になった。
はい、ここで問題です。問題発生問題です!
──うるせ! 意味を重複さすな!?
まぁ一人脳内ボケツッコミは置いといて。
治療の完了した彼女から距離を取る。
「あー、これでも食べて待ってて」
未だ名前の知らぬ赤色の果実を一つ投げて渡す。
剣を持って通路に出た。
「はい、しゅうごー」
なるべく小声で呼び掛ける。緊急召集だ。
「ダンジョンさん。君のくれたリストって、もしかして日付順になってる?」
耳打ちされた触手は体を縦に揺らした。
「あー、嫌な予感がするけど確信が欲しいな。ダンジョンさんの事だ。何をいつ手に入れたか覚えてるでしょ。正確な日付を明記したリスト、用意してくれるかな?」
仕事が速いダンジョンさん。ひらりと一枚の紙が落ちてくる。それを手に取り内容を確認。
「あっちゃー、やらかしてるねー」
リストの一番上にあったのは明らかに人が身に着けていたであろう道具の名称。しかも服の数的に三人分だ。
彼女から聞いた仲間達の職業にピッタリとあった武器の名前が、これも三つ。
「ダンジョンさん。君、あの子の仲間食べちゃったでしょ?」
俺の問い掛けに照れた様子の触手一号君だ。
「照れてる場合じゃないよ! てか、何処に照れる要素あったの!?」
独特のリズムに乗り、体を左右に揺らし消えていく触手一号君。
はぁ~。重い溜め息をつく。これは怒るのもお門違いか。なんて説明したものか。
不必要に頭を悩ませる案件が増えた。
「正直に話すか。なんか駄目そうだったら後はダンジョンさんに任せよ」
"頭痛が痛い"とでも表現しても良さそうな状況に、複雑な思考を放棄して、俺は部屋に戻るのであった。
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