第二話『散策ラスボス』
「森々、繁々してるな。ハハッ」
乾いた笑い。人工物の塊から一歩出てみれば、そこは自然溢れる森の中だった。
最後のハハッが葉々と表記されても違和感がないくらいに、豊かで雄大な木々の聳え立ち。
「なんか困っちゃうな。俺なんてちっぽけな存在だと思い知らされちゃう!」
率先して奇人変人の類いになっている場合ではなかった。
「あれ? 俺の居たダンジョンは?」
後ろを振り返れば、そこには平地があるだけだった。洞窟とかならカモフラージュされてるのだな、って感想だがそれすらもない。
「そこに多分ある。その程度の感覚で分かるくらいだな。恐らく中に入りたいと思えば──」
瞬時に俺が最初にいた椅子に座っている。
「入れる訳だな」
次の瞬間には外に。意思次第で自在に出入り可能なのは楽だな。
「多分、可視化も出来るだろうな。俺の意思で──!?」
目の前に洞穴の入り口みたいな物が口を大きく広げて登場。
言った途端に現れるの止めて頂きたい。突然の出来事に唖然としたよ。
「ある程度、自分の思い通りに動くのは証明されたと」
見えるようになってしまったダンジョンの入り口を再び不可視の状態に戻しつつ、辺りを見渡す。
「気配などはなし。特別感覚が鋭い訳じゃないけど」
目視でも生物はいなかった。鳥など、小動物の鳴き声、囀りはある。
さっきの気配なしは、こちらを襲おうとか、危険因子を含む気配はないと言う意味合いだ。
「そこらを散策するか。色々発見があるかもしれない」
──散策中──
一頭の猪と出くわした。牙の部分が異常に発達しており、体も普通より一回り程大きい気がする。
「俺、素手なんだけど! 徒手空拳なんだけど!!」
不用心に森を彷徨くからこうなる。数分前の自分に、森がなんたるか、説き伏せてやりたい!
背を向け、敵前逃亡などしようものなら、その負け犬の背中は鋭利を極めた牙で一突きされるだろう。
「ならば、立ち向かうしかないよな」
不格好に拳を構える。いつ突進されても良いよう、足は無駄に力まない。
「ほら、どっからでもかかってこいよ」
言葉が通じるとは思えないが、挑発した。
それに乗ったのか、否か。奴は真正面から物凄い勢いで突っ込んできた!
「うおぉ!?」
転がりながらも木々が比較的密集してない右に回避。間一髪だった。
急いで立ち上がり、体勢を立て直す。
「避けれないほどじゃない。でもこのままじゃ消耗戦。いずれ体力が尽きてやられてしまう」
なんとかして倒す策を。そう考え、周囲を観察する。
「木にぶつけるか」
一か八かの作戦を思い付いた。下手をすれば木に磔だ。
「試してみる価値はあるのかな」
もう一度、猪を挑発する。今度は巨木を背にしながら。すると奴はまた愚直にも突進してきた。直線的で捻りのない、しかしシンプルで強い威力を込めた一撃。
ギリギリまで引き付け、攻撃が当たる刹那。上に高く飛び、太い枝に掴まった。
ドンッ!! 地響きにも似た衝突音が響く。奴の牙は深く木に刺さっていた。
「作戦は成功か」
狙い通りにはいった。だが、仕留めれてはいなかった。猪は刺さった牙を木から抜き、俺を探し始める。
奴はピンピンしていた。巨木に甚大な損傷を与えただけだ。
俺はさらに上へ登り、絶対に気付かれない位置まで逃げる。
「危なかった~! 死ぬかと思ったぞ」
難を逃れ、大きく息を吐く。
「まさか猪と出会うとは! はぁ~、次から気を付けよ」
なんて呑気に言いつつ、木から木へと跳び移り、ダンジョンへと逃げ帰った。
その道中でちゃっかり木の実も入手した。今日の食事はこれだけでどうにかしよう。
今後の目標はダンジョン内の調査と猪討伐だな。
「これは、割りと楽に達成可能な目標だよな。人生を賭して果たす目標は何にするか」
軽々しく、物凄い事を決めようとする。
「……まぁ、後でいっか」
パッと思い付く物がなかったので、すはやく脳を切り替えて、放浪を開始した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます