新築ダンジョンのラスボスとして産まれました

クー

第一章

第一話『誕生ダンジョン』

 ここは何処なのだろう?


 目覚めた筈なのに闇の中にいた。瞼は確かに開いている。それは間違いない。ようするに周囲が闇に包まれているのだろう。


 上体は起きていた。椅子に腰掛けているのかな? 


 五体満足なのは理解した。最低限以下の収集可能な情報量に呆れる。


「やっぱり真っ暗なのは不便だよな」


 周囲の様子が分かれば、おのずと収集出来る情報の量は増えるってものなのだが。


 とりあえず、俺は光を求めた。


「光源になりそうな物とか、ないのか?」


 声に出して欲した瞬間、一帯は強い光に包まれる。


「眩し! 0か100のどちらかしか知らないのか!」


 潰された瞳。不機嫌に怒気を含む声が木霊する。


 その言葉に呼応したのか光の具合が弱まった気がした。いまだ視力は回復してないので感覚的にだが。


 目を開けて平気か長めに時間を使って確認してから、恐る恐る片眼を開けた。


 視線の先に広がったのは、何もない、ただの広間だった。


「何処だここは?」


 覚えのない場所に頭を捻る。


「やっぱり椅子に座ってたのか」


 自身が座っている椅子の肘掛けに、使い方正しく肘をつく。


「この椅子にも見覚えないし、それ以前にここで目が覚める前の記憶がない」


 記憶喪失? よくあってよくない単語だ。よくないのは二重の意味で、だ。


「考えた所で答えは出ない……か」


 正面に扉がある。そこから外に出られそうだ。勿論、鍵などが掛かってなければだが。


「とりあえず外に行って、状況を探ってみるのもよしか」


 思い立ったらすぐ行動。みすみす吉日を逃すのは惜しい。今日から行動力の化身になろう。


 なんて考えながら、部屋の外に。重々しい音を立て高い天井と同じ高さがある扉が動く。


「なんで引き戸やねん! 普通開き戸やろ、それも両開きの!」


 押しても引いてもピクリともしないと思えば、正解はスライドだった。思わずツッコミを入れてしまう。


「ふぅ……で、何があるのかと思えば此処にも大したものはないのか」


 仕方ないのであちこち歩き回ってみる。


「しっかし妙な場所だな。用途も不明だし、誰の為の空間なんだろうか」


 通路は明るい。俺の意志が反映された結果だと思う。思考通りに動く辺り、俺の為に作られた空間だと考えるのが一番妥当だと言えるかもしれない。突飛な発想この上ないが。


 なにより、こんな可笑しな空間で冷静な自分にある種の怖さを覚えていた。


「無駄に長い」


 ぼやく。


 一直線の道が延々と続いているだけ。それ以上でも、それ以下でもない。一切、代わり映えのない簡素な造りの通路に気が狂いそうだ。


「あぁ~、頭がおかしくなるんじゃあ~」


 実際に気を狂わせてどうする。前向きに現実逃避した。


「次の部屋まで移動とか、そんな便利機能は付いてないのか」


 口にした願いが叶うのは凄いですね。──って馬鹿野郎。


 先程までいた廊下とは打って変わって、だだっ広い空間に辿り着いた。


「似てるな。俺が目覚めた部屋に」


 俺の居た部屋より一回り小さいように感じる。それにしたって大きい。装飾品もなにもないのが、その広さに拍車をかけてるのかもな。


「他にもこんなのがあるのかな。もう少し動いて把握しよう」




 ──探索中──



「俺の知識にある限りだと、ここはどうやらダンジョンのようだな。憶測でしかないが、新しく出来たダンジョンが何故か、俺の思いのままに動作している」


 異常事態だな。こっちからしてみれば。ダンジョン側からしてみれば、なんらおかしい所のない現状かもしれないけど。

 とりあえず、一通り調べてみて、俺以外の生物はいなかった。ここは無人って訳だ。


「俺がいるから無人じゃないだろ。ハッハッハッ!」


 …………悲しいな。そう、無人島に流れ着いた時の定番アメリカンジョークは置いといて。


 どうしたものか。引きこもってしまえば一先ず安全だろうが、ずっと引きこもってもいられない。それに外の様子も知りたい。


「やはり多少なりの怖さはあれど、外に行くか。危険そうだったら直ぐに避難すればいいし」


 ここにいても緩やかに餓死するだけだ。


「食って寝て、それだけして生きていきたい……」


 駄目人間まっしぐらな発言をしつつも覚悟を決め、俺はダンジョンの外へと、一歩足を踏み出したのだった。

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