バイオレンス・ラブ・ホラー

「この世で一番ホラー映画が好き」と公言してはばからないあいつに告白されて、わたしは大変複雑な気分になる。

 鏡に写った自分は、小麦の肌にショートヘアの、足のある間違えようもない生者で、特別かわいいわけじゃないけど、鬼やクリーチャーを彷彿とさせるような顔でもない、と思う。

「好きなタイプは貞子」と言い切るあいつが、いったいわたしのどこを気に入ったのか、怖くて聞けない。だから告白の返事は保留にしていたけど、「保留? いいよ! すごく死亡フラグっぽくて好き!」と目を輝かせたあいつは普通に気持ち悪かったし、やっぱり断ろうかと悩む。


 仕事終わりのわたしをわざわざ迎えに来たあいつは、そんなわたしの葛藤など知らずに、今日もうつくしいね、と汗のにじんだ額にはりついた前髪を払ってくれる。そのあと誘う場所が、いい感じのレストランならまだいいのに、着いたのはやっぱりレイトショーのB級ホラー映画だから、やっぱり残念に変わりない。


 そんなたわごとみたいな関係が、まさかあいつの死で終わるなんて思わなかった。

 フラグって、「フラグみたい」って言ったら折れるものじゃないの?

 よく分からない主義主張をわめきながらあいつを刺した犯人に向かって、わたしは黙って履いていたピンヒールを脱ぎ、ヒールを顔面に突き刺した。防犯用の合金でできたヒールは犯人の鼻をつらぬいて、引っこ抜くと絵の具みたいな血が垂れて汚い。


 その場の十数人をやっつけただけじゃ気が済まなくて、わたしは護身用のスタンガンとナイフを手に、テロ組織の本拠地へとずかずか乗り込む。

 小麦色の肌をした、ショートヘアの小柄な女が正面に立っただけで、みんな幽霊でも見たかのように、奇声を上げては逃げていく。笑みを浮かべて、その背中を追いかける。逃げ惑う人間は、なるほど確かにおもしろい。

 わたしはようやく、あいつの気持ちがちょっとだけ理解できた。わたしに惚れたのも、こういうとこだったのかな。

 もう答えを聞くことはできないことを残念に思いながら、わたしは教祖に向かって消火器を振り被る。

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