友達満了通知

 唯一無二の親友だと思っていたから、だから彼女から友達満了通知が届くなんて、思ってもみなかった。

 というか、なにこれ?

 あわてて連絡を取ろうとしたら、一向につながらなくて、ようやく捕まえた共通の知り合いからは「あきらめなよ」と一言いわれた。いや、意味わかんないし。


 もしかして、彼女は重い病にかかってしまったのだろうか。

 わたしはたいそう心配になり、あちこちの病院を回ったけれど、彼女らしき人が入院したという話は聞かない。

 なにか犯罪に巻き込まれたとか?

 いや、誰かに脅されているのかもしれない。もしかして、変な組織に洗脳されて、金づるにされているんじゃないか?

 考えれば考えるほど不安はどんどん膨らんでいって、わたしは札束を叩きつけ、ありとあらゆる手をつかって、ようやく彼女を見つけ出す。


 彼女は元気だった。カフェでアルバイトをしていたはずの彼女は、いつの間にか地元から遠く離れた土地に、自分のレストランを構えていた。

 いきなり現れたわたしをみて、彼女は目を丸くした。

「ずいぶん久しぶり」

 彼女は、わたしに満了通知を送ったことさえ知らなかった。

「もうね、管理できないから。全部アプリでやってもらってんの」

「アプリ?」

「友達管理アプリ。便利だよ」

 誕生日の登録から、プレゼントの授受の記録、遊んだ回数と日付、食べたもの、好み。なんでも記録できるアプリには、何年以上連絡が途絶えたら「友達満了」として、以後の付き合いを絶つ旨の連絡が、勝手に送られる機能があるらしい。

「つめたくない?」

 わたしは元親友の彼女を睨む。

「ひどいのはそっちでしょ」

 彼女はわたしの前の皿を下げながらわらう。

「友達の定義も守れないくせに、親友だなんて」


 それきり彼女とは会っていない。彼女の友達の定義は、一年に一度は食事をすることらしくて、だからそれを守れなかったわたしは友達ではなくなった。

 それでもわたしは、おいしい店の話を聞くと、つい手帳にメモしてしまう。満了通知書には、こちらがどう思うかについての記載は何もなかった。

 わたしが彼女に満了通知を出すことは、死ぬまできっとないだろう。近くにオープンしたおもちゃみたいな小さなカフェからは、決して開かない宝箱みたいな、深くて苦い香りがする。


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