第1章 特別です 07

女神の威圧により、少女は腰を抜かす。

心底震え上がり恐怖意外の感情は死んでしまったようだ。

いや、このまま生命的にも死ぬのかもしれない。

途端、一筋の光が走る。


「チャナ、いじめないで。」


ティアを庇う形でチャナの前に立つリエル。


「いじめてなんかいないよ?いないさ。ただボクはリエル様の気持ちをわかって欲しくてね…。」


口調は優しくなったがチャナから威圧感は消えない。


「大丈夫。ありがとチャナ。」


チャナは肩をすくめたが、リエルの言葉で落ち着きを取り戻したのか、ふっと空気が和らぐ。

恐怖心はまだあるものの、ティアの震えも次第に治まっていく。


「ごめんね。我儘に付き合わせて。」


ふうふうと苦しそうに息をするティアの背中をさすり落ち着かせる。


「私が……悪いの…です。お母様が…どんな思いで、1人過ごされていたのか。」


溜まらず嗚咽する。まだ呼吸が浅く苦しそうな顔で続ける。


「初めての…未知に…立ち向かおうとするお母様のことを、ずっと見守ってきた…チャナ様が…お怒りに…なるのは、至極当然です。」


恐怖した心を奮い立たせ、自分もまた立ち上がる。

精一杯の気持ちを込め女神達に謝罪する。


「ごめんなさいチャナ様。それと…お母様もごめんなさい。」


謝罪されるなど思っていなかったチャナは意表を突かれ笑ってしまう。


「あはははは。ごめんね。ボクも感情的だったよ。リエル様と同様に君だって全部初めてのことばかりなのに。こちらの都合を押し付けられ怒りたいのは君だったよね?君だよね?事情を知ってるからとはいえ理不尽だった。本当はボクが一緒とも考えたんだけどね…それは違うとリエル様に止められてね。八つ当たりのようになってしまったかな?なってしまったね。ボクに威圧されて平静に対応出来るとは君に興味を持ってしまうな?持ってしまったよ?ティア。」


今までとは違う怪しい笑みを浮かべるその表情は何かを企でているようにも見える。


「ティア。もっかい。」

「え?何をですか?」


リエルはリエルで話の脈絡などお構いなし。


「もっかい。私のこと呼んで。」

「えっと、お母様?あっ、いや、こちらの方がしっかり来る気がして。嫌でしたらリエルさ…んと。」

「ダメ。ん~お母様…。」


母と呼ばれることを噛み締める。

何度も何度も繰り返し呟き満足したのか、ティアの手を握る。

「ティア、私、お母様。」


嬉しそうに告げると微かに笑った。

その仕草がとても可愛いらしく、自然とティアも笑顔になる。


「はい。お母様。これからよろしくお願いします。」


2人のやり取りを見てチャナが笑う。


「どっちがお母様なんだかわからないな?わからないね?リエル様の方が子供見たいだよ?みたいだね?」


「私がお母様。頼りになる。証拠見せる。」


そう言うと、1人黙って俯いている1号へ視線を配る。


「1号。」


幼女のようなそれはこれから突きつけられる事実を受け入れたくないと拒絶の言葉を吐き出す。


「嫌っ!嫌です!だって…私は…リエル様と…」


「ん。考えてる。」


また泣き始める1号の涙を拭い、子をあやすように優しく抱きしめた。

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