第1章 特別です 03

冷たい視線に思わず悲鳴をあげそうになる。


「チャナ、いじめないで。」

「別に僕はいじめているつもりはないよ~。」


張り詰めたような空気が緩和されていく。

リエルの一言で忘れていた呼吸を取り戻すティア。


「それでボクを呼んだのはこれについてかな?ついてだね?」

「これじゃない。ティア。」

「え?名前まで付けたのかい?付けたんだね?それじゃあついに…」

「ん。特別。」


2人の話はどんどん進んでいく。

完全に取り残されたティアは遅れて到着した1号に話を振る。


「天使様。あの御方は?」

「チャナ様ですか?あの御方も女神様ですよ。ただし、破壊専門ですが。」

「破壊…恐ろしい御方なのでしょうか。」

「いえいえ、とてもお優しいですよ。滅多にお仕事はなく、毎度リエル様にちょっかいを出して怒られています。チャナ様はリエル様が大好きなのですが、リエル様は…ほら、あんな感じです。」


抱きついてくるチャナの頬に精一杯腕を伸ばし嫌がっている。

それに構わず、グイグイと距離を詰めるものだから、チャナの顔がとんでもなく歪んでいる。


「ん~。しつこい。」


そう言うと、小さな手で顔面を鷲掴みにし、そのまま持ち上げ床に叩きつける。

叩きつけられたというよりは、頭から床に突き刺さっている。

あ~あと呆れる1号。怯えるティア。

リエルは逃げるように移動し、ティアの膝の上に座る。


「あの女神様?」

「リエルでいい。」

「ええと、リエル様どうして膝の上にお座りに?」

「呼び捨てでいい。」


いまいち話は噛み合っていないが、リエルは上機嫌に焼き菓子を食べ始める。

困ったように1号を見るが肩をすくめるだけだった。


「呼び捨ては失礼ですので、リエルさ…んとお呼びしますね。」

「ダメ。」

「え?じゃあどうすれば…」

「けんもほろろ。」

「あの…どういう意味でしょうか。」

「リエル様は敬称はよそよそしいと思っているみたいですよ。」

「でも女神様ならば敬うべきで。」

「ティアは特別。だから、いい。」


そう言いながらティアを見上げるように見つめる。

その瞳が『お願いきいてくれるよね』と物語っている。


「うっ…そんな瞳をしないで下さい。」

「仕方ない。」


そう言って脚をプラプラとさせ、焼き菓子を食べる。

それはそれで問題ないらしい。

ホッとしていて、背もたれに重心を掛ける。

ティアが一息付くのも束の間に、突き刺さっていたチャナが飛びあがる。

被っていた真っ赤なシルクハットを拾い上げ、緩く纏めた緑髪の上にそっとのせる。


「それで、リエル様。これから始めるのかな?始めるんだね?」


部屋に響く乾いた声で女神は尋ねた。

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