第459話 【本選・3】


 準備用の部屋に移動してきた俺は、一先ず体を軽く動かしてコンディションを確認した。


「いつも以上に動けるな、ここまでずっと試合を見てきて体がいつもよりも戦いたいって感じてるのか?」


 普段はあまりそこまで戦闘欲は無いが、今はその気持ちが抑える位にはあるのが自分でも分かる。

 それに相手が竜人族というのも、俺の戦闘欲を上げてる要因の一つだ。

 これまで多くの者達と戦ってきたが、本物のドラゴンと戦ったことはあるが竜人族は訓練でリュドラさんと戦ったくらいだ。

 その後、暫く準備室で待機していると係の人が呼びに来たので俺は付いていき会場に移動した。


「わぁぁぁぁ!」


「ッ!」


 会場に向かうと、俺が出て来た瞬間会場中に響き渡る程の歓声が巻き起こった。

 自分が有名なのは理解してたけど、ここまでとはな……。

 そう思いながら会場の中央へと向かい、同じように反対側から出て来たデイドと握手を交わした。


「英雄であるジンさんと戦えるかも知れないと大会に参加しましたが、まさかこうも早くに戦えるとは思いませんでした。よろしくお願いします」


 デイドは俺と握手を交わすと、爽やかな笑みを浮かべながらそう言った。


「よろしく。俺も竜人族とはあまり戦った事が無いから、この試合が凄く楽しみだったよ」


「そう言って貰えて嬉しいです」


 そうして軽く挨拶を交わした俺達は、互いに距離を取って武器を手に持ち試合開始の合図を待った。


「それでは本選第二試合、ジン選手対デイト選手の試合を始めます!」


 審判がそう叫ぶと、試合開始の鐘が鳴り響き俺達は同時に動いた。

 槍を得意とするとデイドは刀で押す俺に対して、距離を取りながら攻撃を受け流している。


「刀だけじゃ、やっぱり厳しいな……それじゃ、こっからは魔法も行くぞ」


「でしたら、こちらも魔法を使わせてもらいますね!」


 接近戦だけでは厳しいと感じた俺が、魔法を使いだすとデイドはそれに合わせて魔法を使って来た。

 事前情報だと魔法はそんなに使わないとされていたが、あの情報は対策されない為に魔法を使う姿を見せてこなかったのだろう。

 こいつはかなりの強者だな……。


「ジンさんは情報収集が得意と聞いてましたから、自分の情報はあまり出さないようにしていたんですが、今の驚いた顔を見ると成功したみたいですね?」


 驚く俺に対してデイドは、してやったりといったような顔つきでそう言ってきた。


「ああ、普通に驚いたよ。魔法は得意としないって調べていたからな、いつから隠していたんだ?」


「この大会があると分かってから、もしかしたらジンさんが来るかも知れないと思って準備していたんですよ。俺が魔法を得意としないという風な嘘の噂を流したりするのには、時間が必要ですからね。その為にここ最近まで、魔法は人が居ない所でしか使わないようにしていたんです」


「徹底していたんだな、そりゃバレない訳だ」


 事前に自分の情報を遮断した上に、嘘の情報まで流すとは用意周到な奴だ。


「お前の事だ。自分の情報を遮断する用意周到さがあるという事は、勿論俺の情報も調べてるって事だよな?」


「はい。勿論、ジンさんの情報は調べましたよ。ジンさんが得意とする技や動き、一通り情報としては知ってますが……その余裕の表情は、ジンさんも俺と同じで情報を遮断している感じですね」


「まあな、それにお前が持ってる情報は最低でも一ヵ月前のものだろ? 俺はこの一カ月間、迷宮の中に籠って弟子の育成と自分の戦い方を見直していたんだよ」


 戦いながら会話をしていた俺は、デイドとは距離を取った。

 そして戦いながら、準備をしていた魔法をデイドに対して発動した。

 俺が魔法を発動した瞬間、デイトの背中数㎝後ろに火の玉が現れ、デイドに直撃した。

 俺が発動した魔法は、属性魔法と空間魔法を合わせた予測不能の初見殺しの魔法。

 この会場中に予め空間魔法の魔力で魔法を発動する場所を指定して、俺が発動したいタイミングで俺の持つ属性魔法の魔法が発動される魔法だ。


「予測不能、初見殺しの魔法だ」


「流石、ジンさんですねッ」


 デイドは苦し気な表情をしながらもそう言うと、デイドの視界外から更に魔法が発動した。

 これも直撃するとだろうと思っていると、デイドに直撃しそうになったその魔法を槍で叩き落した。

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