第382話 【迷宮完全攻略・3】


 ボス討伐を終えた俺達は、ボスの死体を回収後奥の報酬部屋へと向かった。

 その報酬部屋はこれまでの報酬部屋とは違って、生活感のある造りの部屋となっていた。


「やあ、待っていたよ。やっぱり、君達が攻略者となったんだね」


「迷宮攻略、おめでとうございます!」


 俺達が部屋に入って数秒後、目の前には160㎝くらいの白髪の男の子とメイが現れた。

 多分、この男の子が遊戯神の本体なんだろうけど……。


「……あの、神様がこの世界に実体を持つことって出来るんですか?」


「ふふっ、ちょっとした裏技だよ」


 神様は笑みを浮かべながらそう言うと、パチンッと指を鳴らすと部屋の中にテーブルと椅子が出現して、椅子に座るように言われた。


「まず先に、100層突破お疲れ様。君達の冒険は見させてもらっていたよ。僕がこれまで見た冒険者の中で、本当に面白くて沢山楽しませてもらったよ」


「神様に楽しんで貰たなら良かったです」


「特に最後のボスはかなり強く設定していたのに、ジン君にはどうってことない相手だったみたいだね。結局、最後までジン君の本気の力を出す事が出来なかったのはちょっと悔しいかな」


 少し落ち込んだ様子でそういう神様の横に座ってるメイは、神様の事を見ながら「神様、凄く興奮してましたもんね~」と言った。


「あんなに姿の神様、私が迷宮妖精として働いてきて初めて見ましたよ」


「そりゃそうだよ! 僕が頑張って調整したボス達をジン君達は、軽々と乗り越えて来たからね。それに、入手難易度をかなり難しく設定してた魔法玉。僕が想定していた取り方じゃない方法で取ってる時は、本当に驚いたよ」


「あっ、もしかしてあのやり方は駄目でしたか?」


 流石に魔物の手持ちを奪うなんてやり方、正攻法じゃないだろうから怒られるかもと思った俺は、内心焦りながらそう聞いた。


「別に駄目じゃないよ。ただあんな取り方が出来るのは、本当に一部の人だけだろうね。魔法玉を持ってる魔物は、玉に執着するように作られていて、変に玉持ちの魔物を刺激したら物凄い強くなって襲い掛かってくる設定なんだよ」


「そうですよ~、それに玉持ちの玉を奪うって考えたとしても実行はほぼ不可能ですからね。玉持ちの魔物は、他の魔物と比べて能力値は高く、更に感知能力も高く設定されてるんです。その感知に引っかからず盗めるクロエさんの技術は、凄いって神様も驚いてました」


 神様からも驚かれる隠密能力と評価されたクロエは、嬉しそうな顔をして「あ、ありがとうございます」とお礼を言った。

 それから、話は報酬の話へと変わった。


「それでこれだけ満足させてもらったから、ジン君達には良い物を渡したいと考えてたんだけど……ジン君達って、どんな物が欲しいとかあるかな?」


「えっ、俺達が決めても良いんですか?」


「本当は用意してた報酬を渡そうと思ってたんだけど、あんなに楽しませてもらったから僕が出来る限りのお礼をしたいと思ってね」


 神様の言葉を聞いた俺達は顔を合わせ、「どうする?」と話し合いを始めた。

 正直、今現在欲しい物は殆どないし、あったとしてもそれは取りに行ける範囲の物だ。

 それをこんな神様に頼むなんて、逆に勿体無い気がするな……そうだ! あの事を聞いてから、決めよう。

 俺はある事を思い出し、俺達の話し合いを待っていた神様にそれについて聞くことにした。


「神様、これは俺が事前に調べた情報なんですが、この迷宮はここで報酬を貰うとなくなるんですか?」


「ん~……それなんだけど、今までだったら攻略されたら神界に戻って、次の迷宮の構想とか考える時間に費やしてたんだけど、今回は戻るのを悩んでるんだよね」


「えっ、それはどうしてですか?」


「うん。僕が作る迷宮にもある程度の制限があって、一度作ったら100年間は下界に来れなくなるんだよ。神である僕にとって100年はどうって事無いけど、100年もしたらジン君達はいなくなってるでしょ? 折角、こんなに楽しませてくれた人が居るのに、帰るのは勿体ない気がしていてね……」


 そう神様が言うと、隣で話を聞いていたメイが「えっ、そんな事を考えてたんですか!?」と驚いていた。


「考えてたっていうか、ジン君達を見てたら自然とそう思ってきちゃってね」


「という事は、この迷宮は消えないんですか?」


「ん~……消すか消さないかは、ジン君達次第って感じかな? 折角、残ってもジン君達が来てくれないなら意味ないから」


「残すのでしたら、勿論また来ますよ。こんなに凄い迷宮は他にないですから」


 そう俺が言うと、クロエ達も頷き「絶対に来ます」と言った。

 そんな俺達の言葉を聞いた神様は笑顔を浮かべ、「それじゃ、残そうかな」と迷宮を残すと言った。


「えっと、俺から言い出した事ですけど、そんな簡単に決めても大丈夫なんですか?」


「うん。大丈夫だよ。それで欲しい物は決まった? 今のはただ僕が悩んでいた事を決めただけだから、報酬とは関係ないよ」


 そう笑顔を浮かべて言う神様に対して、俺はクロエ達と話し合いを行って決まった報酬をお願いした。

 その内容を聞いたメイは驚き、神様は盛大に笑った。


「やっぱり、ジン君達は面白いね! 遊戯神の僕をこんなに楽しませてくれるなんて、最高だよ!」


 それから俺達の報酬は時間が掛る物だから、後日受け取ると約束をして迷宮を出る事にした。

 迷宮の外に出ると、俺達が報酬の話をしてる際に攻略中だった冒険者達が外に出されていたみたいだ。

 辺りを見渡すと、ユリウスや姉さん達はいない事に気付いた俺はクロエ達に声を掛けて、他の冒険者にバレない内に転移で宿に帰宅した。


「ジン君達、待ってたよ。やっぱり、君達に先を越されたみたいだね」


 宿に戻ると、そこにはユリウスや姉さん、ルークさんにルバドさんと言った迷宮に挑んでいた知り合いの人達が集まっていた。


「あれ、俺達が攻略者ってなんで分かるんですか?」


「そりゃ、僕達の先に居るのはジン君達だけだったからね。迷宮妖精の子に、昨日の時点で僕達の先に居る冒険者は誰か聞いたら、ジン君達しか居なかったからね。それで、本当にジン君達が攻略者で間違いないよね?」


「はい。俺達が攻略者ですよ」


 そうユリウスに言うと、ユリウスの隣に座ってたアンジュさんは不貞腐れた様子で「また負けたわね……」と悔しそうに言った。

 その後、折角これだけの人が集まってるならと、俺達の迷宮攻略を記念したパーティーを宿で行った。

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